一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十

　第五章　歌姫の鳥檻　トロヴァオン・アコルデアオン双辱刑、ウェディング・オークション　β版

（もう、終わりだ。……わたしは、もう終わり）
　淫らに狂い、恐怖と陵辱に負けて敵に屈する所を見られたのだ。熱に浮かされた頭でギルバとヴュゾフィアンカの激戦の喧騒もどこか遠い世界のことのように傍観していた少女は、その間、淑女の左腕に抱えられながら茫然と、隙を狙う素振りすら見せなかった。
「アッハハハハ！　見ていてくれたかしらーぁ、ランセリィ?!　私の勇姿！　もう汚らしい触手共を千切っては投げ千切っては投げ、近年稀に見る一大スペクタルだったわね!!」
　難敵を辛うじて退けた蛇怪の巨像の周囲で、それぞれ歪なタロットカードにちなんだ特異な形状と能力を持つ大蛇の首が、近代戦車すら飲み込めそうなを開いて威嚇音を立てる。二十二本中の半数以上が潰され、或いは焼け落ちていた。
　頂点に位置する玉座で半裸の上半身を晒した狼髪の美女が、身の丈に合わせて巨大化させた双頭の大鎌を、柄に掌に生んだ吸着効果のある魔法陣を押し当てて保持しながら一回転。周辺に散らばるまだ温かい屍に成りきれていない血肉にドンと突き立てて哄笑する。
「お前も頑張ったわね、シェリスエルネス！　向こうも本調子じゃなかったんでしょうけれど！　ご褒美よ、ご褒美だわ、ご褒美をあげるっ!!」
　占蛇の群れの上空に黒い点がある。それは腐泥の王が完全に撤退したのを見届けたと思うと急に、沛雨に打たれて梢から散る花びらの如く、重そうに空気抵抗に揺られながら落下した。地響きを立てて動いた凶悪な女神が予測コースに本体のある頂上を割り込ませ、難なく受け止めて右腕で抱え込む。呪法に縛られるままに力を振り絞って闘わされていたシェリスエルネスである。魔力は極度に衰弱し、甘い芳香を放つ返り血と脂汗に塗れてべっとりと肌に貼り付いたドレスは、赤い香油を被った黒百合の如き頽廃的な有様だった。
　既に意識が朦朧としているようで、激しい闘争本能だけが朱脣を動かさせている。
「……ァ……ゥ゛……ゾフ、ィ……ギルバを、追い払ったら……次は貴方……ッ……ッ……ッガァァァァアアアア゛ァァァァァッッッ?!」
　肩を貸されたゾフィアの外套に噛みつき、向かい側の我が娘に手を伸ばそうとする魔姫。だがしかし、両腕に花と凶女に抱かれた二人の周りで残った巨蛇たちの眼光が輝いた途端、子宮の烙印が淫蕩な灼熱を孕み、鉄板に乗せられた猫の如く彼女をのたくり始めさせた。
「……シェ、シェリ――？　ふぁゃっ、わた、しも――?!　お、お腹の中が、疼、く……!!　ゃぅん……くぅぅぅっん！　ヒォ……ォォォオ゛ォォォォォォッッ!!」
　母体の見せた凛々しくも鬼気迫る貌に気圧されて一瞬身を引いたランセリィも、ビクンと小柄な体躯を弾ませたかと思うと一声叫び、唇を噛みながら肢体をくねらせ始める。裸身を惜しみなく晒して舌なめずるゾフィアの左腕が、魔少女の左肩から胸、股間へと梢から降りる大蛇の如く伸びてくると、過敏に仕込まれた幼身が自らすりついてしまう。
「あ、ぁ、っ、だ、駄目っっ！　シェリスの前で――、あ、ぁ、ぁぁ、あん゛っ！」
「Hey! Cracked Cracks!私の愛しい花嫁たち！　愛し合うお前たちをじっくりグッチョグッチョに潰してあげる！　分かるでしょう、グリーディ・タロットの歓喜に疼き滾るのが！　尻尾を振るのも千切れんばかり！　恋に腐蜜を想いに暴嬲をっ、悲恋淫唄の百の手管をお見せするわ!!」
　烙印の業火に蕩かされ悶える母娘が、両側から、ぎゅっ、と菫の淑女に招かれる。そうして小さいお人形と大きいお人形の抱き比べをされながら、背中越しに熱っぽい四翼を感じたランセリィの肩が、肉食獣の挙動に怯える無害な小動物の如く竦んで縮こまった。
　完全に打ちひしがれた心が小悪魔のなりを潜めさせ、従順に右隣の様子を伺わせるのだ。
　脚の付け根をまさぐられるだけで、腿が開いて膝を立たせてしまう。ヤドカリの脚を真似た動きをする手套の指先に未熟な花弁の陰翳を擽られると、ふわふわした快楽の漣に翻弄され、力を喪って垂れた腕で懸命に拳を握り締めて耐えるのが精一杯にされてしまう。
　下半身を合身体から引き抜いた凶鳥が気持ち良さそうに裸体を伸ばし、命令を下した。
「うふふぅ……っ、闘いで疲れたご主人様を慰めなさーい？」
「ぅ、ぅぁ、ん……」
　首肯の如く先端を上下に震わせた銛状の尻尾が、戦闘の興奮で熱く濡れそぼったゾフィアの膣の中へしずしずと埋まっていく。己の尻尾を相手の愉悦の道具に差し出す屈辱と、火傷しそうなヴァギナの高温を感じて頬が染まる。その向かい側で淑女の右腕に、腰の括れを巻きつき押さえつけられたシェリスエルネスは発情した雌猫の泣き声を上げていた。
「ひに゛っ、ぃヒぃぃぃぃァイっ!!　　だ、だめ、こんな、の……ぉぉぉっっっ！」
　湿気った薪の如き衰弱した女体に忌まわしい呪力のオイルが染み込んでいく。パチパチと、どす黒い快楽の黒炎が煙を上げ、下腹部の子宮の炉心を無理強いで融解させていく。
「ハァ゛ッ、ハァァ゛ッッ、ァハァァ……ッ、ァァァ……ックァォォォォッッッ!!」
　黒い傘スカートからすらりと零れた白い脚が藻掻く。内腿の根元をヌルヌルした愛液と共に激しく擦り合わせ、己の胸の谷間を膝蹴らん勢いで曲伸を繰り返し、踵を滑らせ汗雫を振り散らす。足の指はキスを強請るかのように盛んに靴の中で蠢き、折れんばかりに背を仰け反らせた魔姫は水底で酸素を奪われた犠牲者の如く、無様に朱脣を開いて甘い唾液を垂れ流した。左掌で肉毬じみた左の乳房を鷲掴み、ニプルを犯しながら噴き出そうとする母乳の流動を封じつつ、そのボリュームを悦楽の電撃に痺れながら限界まで押し潰すのだ。
「い、や――、み、ぃううう゛――――っっ！　あ、あつっ、熱いの……誰か冷ましてぇぇぇぇぇえええっっ!!　ォふ、ファ゛、ぁうううぅぅぅぅぅぅぅ……っっっ!!」
　がむしゃらに四肢を動かし右腕で背後の術者を叩いて愉しませながら、まるで栓の弛んだ貯蔵タンクの如く全身から汗と涙とラブジュースを垂れ流す。肉体を骨まで磨り潰して牝媚のペーストにしてくる圧倒的な悦楽の波が、恭順を求める暴力的エネルギーをドレスに浮き出た三つの突起に集約させていく。振り立てられる腰が架空のペニスを咥えて舌を突き出し狂喜し、神経の枯れ木が魔悦の業火にバリバリと叩き折られていった。
「ゥアァァッ、くるっ、くるぅぅぅぅッッ!?　な、波と、白くて灼けるのガぁぁぁ、来てしまいますのォォォッッ!!　くああぁぁぁあぁあああっっっ!!!」
　端正な面立ちが被虐の頂点に放り出された。湯を浴びたように上気した頬。吊り目を維持したまま瞳孔を広げて快楽の奈落を垣間見る巴旦杏アーモンド型の蒼瞳。湖面がぐらぐらと瞳孔を揺らし、悦に屈した柳眉の端が下がっていく。恍惚の絶叫と共に焦点が喪われた。
「あ……ア…………ァ……」
「さーぁ、シェリスエルネス、お前は私の汗を拭いて？」
　彼女の瞳は視神経の断線したかのように虚ろ。肢体に淫熱を満たし、小さくくねり、「ハァ……ハァァ……」と危うい呼気を撒いて振り向いた。勾配の急な淑女の砲弾型の果実の谷間を汗が伝うのを眼球に映すと、夜戯菫の裝ゴシックドレスの腕中で身体の向きを入れ換え、ゾフィアの右乳房に己の隆起豊かな正面を押し当てて腰に腕を回し、胸元に顔を沈めていく。
「ふぁ、ぁん……、ぅ……ぁ？」
　正気を潰され、躾の済んだシェリスエルネス。濃縮された酸味を彷彿とさせる汗を掬っている内に舌が魅惑の峡谷から離れ、顎から右耳の根元付近にかけてを無心に嘗め回し始める。互いの興奮を高め合うかのように、白亜の裸身と血塗れの黒衣を絡み合わせていく二人。「くくっ、くくく！」含み笑いを漏らしながらゾフィアが身の揺れを増大させていくと、ついに堪えきれなくなった奉仕犬が、相手の秘部に自分の股間を擦り付け始めた。
「あー、あー、ぁっ、ぁっ、……ぁあ――ぁぁ！」
　惚けた嬌声に反して、勢いの激しさの余り捲れたショーツのクリトリスと、背を向けたまま背後の恥態に震えているランセの、凶女の膣に捧げられた軍艦色の尻尾がぶつかる。
「アッハ、感動の再会ねーぇ？」
　ギラギラと紅瞳を輝かせた淑女が歪んだユーモアで相好を崩した。そして眠たげな逆蒲鉾型に下がっていた瞼をキロリと見開いてランセリィを睨みつける。
「私と他の連中の間で目移りしていた悪い子にお仕置きの時間よ！　お前の運命を握る唯一人の支配者が誰なのか、たっぷりとその身に刻みつけてあげる!!」
　カタストロフ・ルーラー、ヴュゾフィアンカが伸ばした指先に三枚の札が生まれた。
　――『亡者に引き裂かれる死神』
　――『折られた杖に縋りつく皇帝』
　――『輪姦される恋人たち』
　異形と化した魔物喰らいの麓から三つ編みに絡まった菫光が天に向かって伸び、残っていた大蛇の内の呼応する三匹が鎌首を擡げてトライアングルを描く。喉の奥を見せてを開き、周囲に瘴気を吐き出して呪いで汚染していく。同時に輝く霧が屍肉を掻き分けるように収束し、紅い布を敷かれた円形の舞台が実体化して空間の底から迫り上がってきた。
「いざや成れ、三重の軛、転落の唱和、大終焉の晴れ舞台！　淫蕩なる燔祭の儀に高らかに響き渡れ忌呪の鐘よ、虐殺の鎚の音よっ、いでませい、スプーキーズ・レギオン!!」
　死に神のカードを象徴した巨蛇が「シュゥゥゥッッ！」と威嚇音を立てる。氷を思わせる冷たく透き通った鱗に幽鬼の如き青白い炎を纏い、敵の命運を断つ大鎌の刃を眉間と顎から鋏じみた剣呑さで生やした、それ。何処からともなく辺りに招き寄せられた霧をサファイアブルーの瞳から迸った魔光が照らすと、化学反応を起こしたかのように一粒一粒が人魂となって燃え上がり、無数の影が炎上する滝壁の向こう側から乱雑な行軍で現れる。
（こ、こいつら、あの街でシェリスが仕留めた――っ？）
「そう、同士討ちもいるけれど、お前たちを手に入れる為に死んだ男どもの成れの果てね！　ザーバッハが更地にした跡に戻って餌を探すのは間抜けだったけど、驚かせられたなら、やった甲斐はあったわねーぇ！」
　吸収済みの魔姫の記憶に該当する顔を見つけて表情を変えたランセリィに、女が答える。
　オリーブ色の野戦服を着崩したベテランハンターの集団。巌の如き巨躯の黒鬼。
　生前そのままの姿の悪鬼たちが爛々と目を光らせてシェリスエルネスを見上げている。
「ハァイ、地べたを這いずり回るファッキン蛆虫野郎ども！　私からの温情でゲームの提案よ、権力者野郎ルーザー・ピッグどもの競りの真似事をさせてあげるわ！　Let's get stupid & assault. it's乱痴気騒ぎよ、思う存分犯しなさい！ on!　豚が恋い焦がれた宝石を私たちでグジャグジャにしてやるの!!」
　死した己らを呪法具に喰わせ使役している女が何を言い出すのかと、疑心と憤怒の視線がゾフィアを射抜く。だが、言葉の意味が浸透するにつれ、ささやかな興味が生まれていくことも否定できない。
「ルールは簡単、お金を沢山出した奴が勝ち。どうせ戦場に大金持って来てる奴なんていないでしょう？　お前たちの持ち合わせでも勝機はあるんじゃないかしら。隣に居る奴の懐から奪ったっていいんだし！」
　呻くような反応が返る。怨嗟に染まった亡者の瞳に満ちていく精気。「面白ぇ」誰かが口笛を吹いた。天文学的数字の額の賞金首を自分たちで好きにしようというのだ。生のある内は考え難かった景気の良さにスラング混じりのヤジが飛び始める。
「馬鹿馬鹿しい……そんな非文明的で野蛮な宴――っ！」
　その流れに抗って否定の声をあげたのは、ミーティとメデューナに殺された筈のビジネススーツを着こなした黒猫人間だった。同時に――グヂャリ。彼の爪先に巨大な大鎌が振り落とされる。潰れた足をグリグリと抉りながら支配者たるゾフィアが冷然と睨め下ろす。
「Do you want to be six feet under again?また地獄に戻りたいのかしら！　やるわよねぇ、New Jack青二才？　どうせ死んだ身でしょう、命令につきあいなさいな」
「こ……こと、わるっ！」
　言い切った瞬間、彼の眉間からナイフの切っ先が飛び出した。背後でジャグリングをしていた角を持つ骸骨が、投擲を終えた姿勢のままカタカタと不気味に歯を鳴らす。
「……乗った。我が輩も参加して構わんのだろうな？」
「Fat! そうね、ピーピルメーゼ。お前は賞金をかける側だったけど紳士は歓迎するわ！」
　血の臭いに興奮して俄に活気づき、足を踏み鳴らす粗暴な賞金稼ぎたち。バンシーが盆に乗せてきたゴブレットを引っ掴み強烈なアルコールを呷る。劣情を煽るジャズ調のミュージックに身振りを合わせ、糞ったれなヴュゾフィアンカを罵りながらリズムにノリ出す。
　女神から切り離された淫祠邪教の蛇像が、ゆっくりと傷を癒しながら場を鎮座睥睨。そこを外周の一点としてダンスホール程度に狭まる空間に、陽気と怒気とが凝縮されていく。
　早速、黒猫サラリーマン氏の懐にあった黒革の財布を奪い合う喧嘩が始まった。

　場末の即席クラブハウスの雑多な嬌声に、少女たちの苦悶が溶けて消えていく。『貪欲呪栞』グリーディ・タロットに囚われた母娘に用意されたのは、扇情的なウェディングドレスだった。
「Butter!　いいわ!!　おめかししたわね、二人とも！」
　合身を解き衣裳を纏い、ケープを脱ぎ捨て幾分身軽な格好になったゾフィアが、ブラウスの砲弾型の乳房を強調するように突き出しながら手を叩く。それぞれ趣の違う花嫁装束に身を包んだ獲物を中央の円形ステージに引き摺り上げて、インカムを装着して歌声一つ。
「ハァイ、ヴュゾフィアンカの夜伽を誘う電話局ブーティ・コール・スティション！　さーぁ、オークションの前に皆の一番のライバルを紹介するわ！　名前はランセリィ、シェリス好き好きな女の子っ！　想い人を取られまいと抜け駆けて、なんと自分をプレゼント衣裳に包んでの登場よ！」
「ふ、ふみぁ……な、に、この格好……っ、そ、の、言ぃ方ぁ、やめろぉぉ……っ！」
　灰色に透けたヴェールが揺れる。快楽への疼きで抜け落ちそうになる牙を決死の想いで剥いて、ランセリィは真っ赤になっていた。無理もない。こんな格好をさせられていては。
　纏うのは、喜玖の贈衣。ブライダル・ギフト・クロース黒と緑が表裏になった二色のラッピング・リボンが手足に螺旋に絡みついて幼い宝石を飾る。一度裸身に剥かれた少女のなだらかな丘陵と尖ったニプルを、大胆に肉抜きされた露出度の高いコルセットが色に輝いて包装していた。
　縄痕の残る肌を決して好意を抱けない輩の目に晒させられて魔少女は呻く。ミシン目じみた赤い痣に舞台下に屯す人怪混合の雄どもの野卑な好奇の視線が突き刺さった。嫌悪に嘗められ悍ましさに震える仔豹。初めて嗅ぐ饐えた酒と野生の薫りに初な鼻腔を犯される。
「あら、ザーバッハの前では啖呵を切れたのに、もうその気概は萎んでしまったのかしら？　ここの連中の前で言ってご覧なさいな、シェリスエルネスが大好きって」
「く、ぅぅぅぅぅっっ！」背後から囁かれても、喉に石が詰まったかのように言葉が出て来ない。敗北者には下衆の前で矜恃を語る資格などないのだと、精神を自傷させられる。
　翡翠の埋め込まれた影色の妃冠カチューシャ・ティアラ状のウェディング・ベールから紅頬に垂れるレースの奥で、羞恥と苦渋に歪む少女の顔。隷属の証たる首輪の如く漆黒の首飾りチョーカーに銀鎖を巻いた首元で、そこから下がった三日月のペンダントに焦燥と媚熱の汗が流れていく。
　飴細工の如く儚げな鎖骨も、水滴の浮いた硝子器じみた華奢な肩も衆目に露わ。ビスチェタイプの衣裳にあどけないネックラインを隠す無粋な小物はあろう筈もなく、万年筆の先端のように尖った囲いを二本、柔肌に突き出して乳房に最低限の覆いを被せるのみ。
　風の動かない淀んだ蒸し暑さと淫猥な熱気に当てられて、首までのアッシュ・ヴェールが、触れたうなじに汗で貼り付いてくる。痛い程の心臓の動悸に押し出される興奮の奔流に弾性線維が拡張された。ズキンズキンと脈動する全身の血管に肉の器を内部から甘美に擦過されて、少女はＭ字のカップに包まれたフラットな胸の奥を掴むように掻き抱く。
「わ、た……し、は……ッ!!」
「身体は火照るのに胸がキュンキュン締まるのかしら。届かない恋は辛いわねーぇ？」一対の蝙蝠翼を力なく萎れさせて震える背中に、寄り添った淑女が甘い吐息を吹き掛ける。
　尊厳の軽量化を突き詰めたレーシングカーの如くシャープで表面積の無いコルセット・ドレスは、背の肩胛骨から尾骨にかけてと、下腹部の鳩尾から股間や腿の付け根まで、広く抉られて装束の役目を放棄している。ヒップラインに至っては馬蹄型に繋がった革一枚が丘陵にＣ字のリングとなってかかるだけ、驚くべき事にこの衣裳は、胸の正面と臀部への、横から見ればＳ字の締め付けだけで貪欲に彼女の肢体に貼り付いているのだ。
　――んふ……ちゅっ。
　ざっくりとカットされた背面は雪山のゲレンデの如き急なカーブを描く脊梁を露わにし、麓のエナメル質に輝く漆黒の悪魔尻尾の生え際までノーブレーキで、艶めかしい背筋の窪みのシュプールを走らせていた。ヴュゾフィアンカが整った鼻梁を押し当ててきて甘酸っぱい汗の粒を舐め掬う。「極上の果糖酒リキュールよ。グラスに溜めて下に渡したら、あいつら喜んで飲み干すんじゃないかしら？」「ゃ……ぁ！　そ、想像させるなぁぁ……っ！」
　実際に肌を吸われ啜られるような錯覚に、全身の産毛の根元が開いて恍惚の雫を垂らした。生温かい視姦の泥中に落とされて藻掻く。こうして檀上で無数の眼に、優に八割を越える露出面積を這いずり嬲られていると、表皮を走る断続的な恥辱の火花に声が出てしまうのだ。
「く……ぅぅん！　み、るな、下郎、ども……ぉぉ！　や、八つ裂かれ、たいか！」
　若さも鮮やかな羽の付け根、下に黒色を忍ばせる薄皮に汗が滲む。
　弱々しい羽ばたきと身じろぎで、逆Ｕ字の扉型に下腹部の鳩尾から股間まで空いた臍出し意匠の装束が、ぴっちりした素材を一緒にくねらせる。
　――生憎だぁな、俺たちゃ、もう死んでるぜ！　いいねぇ、その悩殺ポーズ!!
　――何ならお嬢ちゃんが俺を昇天させてくれよ！　その可愛いお口とお手々で、ちょいとこのコックを一撫でしてくれりゃぁ、白いパン屑撒き散らして昇って逝けそうだぜぃ!!
「い…や……っ」
　幾枚も上手な応えで、たちどころに頬も理性も紅潮させられた。真っ赤に悶える細い腰。呪悦の毒牙にかかり、今にも頽れて股間を掻き毟り始めそうな。
　腰穿きの役割も果たすドレスの裾はマイクロミニで、ベルトのクロスで塞がれている下腹部に開いた地獄の門の奥では、卑呪を孕んだお臍が乱れる呼吸に合わせて盛んに伸縮していた。丈の極端に短いタイトなスカートからはショーツの盛りが覗く。賞金稼ぎたちの耳を覆いたくなる声援が飛ぶ。これでは品評会よりもストリップショーの趣だ。
「ん……ん……！　こんっ、こいつら……ぁっ!!」
　四肢をリボンでくるまれた少女は、キッと舞台下を睨んだ。渋い黒檀色の面を見せて先まで巻かれてから、暗緑色のもう一面で折り返し絡めて黒緑二色を交差させたラッピング。二の腕と太腿半ばで端を蝶々結びにされて、市松模様にチェッカー・ボードなった羽がフリフリと揺れる。
　特筆すべきは腕への巻き方だ。一部のリボンがぐるりと両腕を一巻きにして、まるで手錠のチェーンの如し。ちょうど子供の頭が入るくらいの隙間をあけて縛められていて、お陰でランセリィは、それ以上に腕を広げることが出来なかった。
（このリボン、指の間にまで生きてるみたいに絡みついてきて……ムズムズする……！）
　手足の指のまにまに潜り込むカラフルな螺旋の毒蛇の衣擦れの感触は甘く、四肢の先端が掻痒感に腐り落ちていく。踵に靴代わりに固く巻き付けられている箇所も、グシャリと熟れた梨がもげて地面で潰れるかのように、急速に蕩けて平衡感覚を失っていくのだ。
（あ……ダメ…っ……ふわふわして、膝に力が入らなくぅ……っ！）
　――カクン。立たされていた少女の腰が崩れた。『私を食べて』。そんな隷従に満ちた卑猥なコンセプトの魔力にギターの弦を掻き切るが如く身も魂も激しく奏で鳴らされ、幼い芯が悪辣な快楽の注入に耐えきれなくなっていく。
「やだ……濡れる……どうして……ぇ!?　違……っ……ふぇ……ぇ」
　決して子宮の烙印が燃え盛っているからだけではない。まるで狭い溶鉱炉に閉じ込められて次第に温度を上げられていくかのように、腿の付け根が痛烈に疼いていく。暫しの平穏で凪を得ていた翻弄され続けてきた快感神経の燻りが再び淫ら汁を滴らせるのだ。
　即ち昂ぶっている。この状況に興奮させられて。黒い下着に滲んでいく粘度の高い体液の感触に僅かに泣き声が漏れ出てしまった。彼女は顎を引いて歯を噛んだ。ぺたんと両脚を畳み、戒められた両腕を膝の間に突いて、妖悦の魔笛が吹かれる度にヒクンヒクンと身を捩る殊勝な囚人。手枷代わりのリボンを掴んでゾフィアが強引に少女の腕を吊り上げる。晒される脇や胸元。あえかな紅味も色濃くなり、萌えている。
「くぅ、ん、ゾフィ……ッ……引っ張ら、ないで……っ！　手が千切れ……っ」
「知らないわ。折角私が見繕ったウェディングドレスなんだもの、ちゃんと母親にも見せてご覧なさい？　ハイ、シェリス、淫売プードルをプレゼント・フォア・ユー。お前が落としたのは強くて格好良い前のランセリィ？　それとも、淫乱になっちゃった今のランセリィ？　それとも理想家のお前？　今の負け犬で雌犬のお前かしらーぁ？」
　結婚式の付き人を気取ったゾフィアに引き合わされる先に同様に、悪趣味な悪魔崇拝をモチーフにした荘厳かつ淫靡なウェディングドレスを着せられたシェリスエルネスが居た。
　そして死者が一人。人知れぬ太古の様式に則った巨大な柩の蓋を半分外し、内側から奇怪な無数の腕や足、そして卵形の頭部を出した異形が、常夜の魔姫の至る処を掴み抱えている。瞼のない緑の蛍光色の眼球、唇のない三日月型の亀裂じみた口……。
「いヨぉ……母娘ェ揃ってイいざまぁじゃネぇカ、シェリスエルネスの娘ぇェェ……」
「グス、フェラトゥ……ッ」それはかつてランセが討ち取った魔姫捕縛の主導者の一人。
「ハァイ、クライアント。人に最初に葬儀の概念を教えた冥王の末裔。屍煙城の掃滅者。淫蕩無法の千手観音。約束通り、シェリスエルネスを抱かせてあげてるわ。念願の。……嬉しい？　嬉しいわよねーぇ？　うふ……うふふふふぅ……っ！」
　凶事しか齎さぬ淑女がクスクスと笑いを噛み殺す。支配者から下僕の境遇へと貶められ喉の奥で唸り声をくぐもらせた怪物の、激昂を宿した鉤爪が魔姫の乳房を乱暴に圧迫した。
「ぅ……ぁ、ぅ……、……くきゅ……ぅ!!」
　話題の中心になっているシェリスはと言えば唇から呻きを漏らし、震災の大鯰の如くグラグラと身をくねらせて淫烙の脈動の齎すねちっこい快楽に蝕まれていた。女香の匂い立つ甘美な苦悶に満ちていて、とても周囲の様子に耳を傾ける余裕はないようだった。
　腕を伸ばせば届く距離。それを酷く遠く感じるランセに代わり、すい、と差し出した白手袋で角の折れ後をなぞって享楽と猛毒の淑女が笑う。
「立派だったのに折っちゃって御免なさいねぇ？　お詫びに子宮の烙印を疼かせてあげているのだけど、如何？　もう指一本動かせないでしょう？　――人の話を聞きなさい？」
「ぎ……いぎぃぃぃぃっっ!!」
　乳首をねじって正気を呼び覚ます。電撃が魔姫の思考を悦楽で劈いた。相手が自分の言葉を脳まで届かせていることを確かめてから、ゾフィアが肩を捕らえた獲物を押し出した。
「ほぅら、見てあげて。ねぇ、シェリス、この子、子宮の中を弄くられるのが好きな変態になっちゃったの。突っ込まれたら何にでもよがり狂うビッチなのよ！」
　明るいその声は心の奥底まで届いて踏み躙ってきた。屈して快楽に身を委ねたことで、躯の何処か大事な部分の捻子が一本、外れて見当たらなくなってしまっている。シェリスの前だから急いで探して嵌めなくてはならないのに、何処を手探っても不安定感ばかり。
「言うな…言う、な……ぁ……っ」
　――お・す・わ・り。と、肩を優しく撫でて合図をされると、その温もりに促されて深い尻餅を撞いてしまう。意志を外れて勝手に、再び立ち上がる気など毛頭無い思い切った後方への重心移動がなされ、両膝を合わせて踝は離した醜悪な媚びに満ちた体育座りになってしまうのだ。背後に正座に近い形で控えたゾフィアが、尻の谷間に潜り込ませてきた蛇尾をしの字にしならせて、黒いショーツの股間に縦に入った切れ込みから挿入してくる。
「ひ……ぃっ、いぐ……っっ!!」
　――ジュヂィ……ッ!!
　刷り込みの済んだ肉体は浅ましい。両腿をぎゅっと閉じ、下半身全てを淑女に擦り付けるようにして、己の膣肉を蛇で掻き混ぜる。視線を感じて咄嗟に緑鱗を咥えた付け根を晒す脚を閉じようとしたが、石膏色の手袋を差し入れられて条件反射的に開いてしまった。
「う……うぅ……っ、ちがう、ちがう……っ」
「男の惹き方をたっぷりと実演させてあげるわ。ここをてらてらに解きほぐしたら、何枚のコインが積まれるかしらねぇ？」
　雄たちがごくりと生唾を呑み込む中、下腹部と閉じた太腿の隙間が描くＹ字の中央を、手套の指先で摩られる。すると、愛液のこびりついた細い太腿が跳ね橋を上げるようにして膝を左右に別けていった。そうやって外気に嬲られながら愛撫をされると余計に気持ちが良いと、躯がすっかり学んでしまっていたのだ。しとどに濡れる股間がシェリスエルネスに見せつけられる。秘部に添えられた親指の根元の膨らんだ箇所でクリトリスを擦られると、硬く痼った真珠が羚羊の革の上で鋭敏に転がった。鉤裂きだらけのオーバーニーから覗く少女の筋肉が緊迫した快感に張り詰め、限界付近に晒される心が堪らなく疼く。
　思いついたゾフィアが翼から己の羽根を抜いて、ダンスホールに向かって軽く振った。
「殴り合う手を休めなさい、アス・ホールども！　悪戯女神のテレフォンタイム・コーナー。一本五十セントで、この娘のホットスポットを擽らせてあげるわ!!」
　連中も心得たもので、幾ばくかの硬貨を投げ付けてくる。青ざめたランセの顔をにんまり覗き込んで、悪意のＤＪが一本一本、蛇尾に沿わせて少女型のレコードに菫色の羽針を挿入し、嬌声の楽曲を弾き出してきた。
「ぐ……、や、ぁ、……それ、もうや……っ!!　あ……ふぁ！　ぁぁぁあ……っっ！　あ――――――ッッ!!　ヒ、ヒィィィィィィ――――イイッッ!!!」
「良かったわねーぇっっ、ご主人様をくるくる変えようとする尻軽のヴァギナにも、まだ多少の価値はあるみたい！」
　大した金額ではない。そんな額で身体を自由にされる屈辱に身が軋むが、それを上回る快楽が襲ってくる。
　陰唇からドロドロと湧き出る愛液。グチュッと割られたショーツに滲む。大量に詰まった羽根ペンはトウモロコシを丸々一本突き込まれたような重量感で、とば口から溢れ出した部分が根元の毛のようだ。それを掻き分けているスペード型の蛇の頭がぐっと奥に力を込めると、哀れなほどあっさりと少女の抵抗が崩れた。
「ふひぁぁぁ……っっ！　は、はぁぁぁぁ……っ……ぁぁぁぁぁおおお゛オオオォォォォォォッッッン!!　ら、ラ…ェ、らめぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
　せつなく開いた少女の喉から、会場に響き渡るハーモニーを引き出しながら、ゾフィアが顎を掴んでランセの顔を上げさせると、旋毛を己の胸元に押しつけてくる。身を屈めてきた輝銀の髪の凶女に逆様に唇を吸われ、垂れたウルフテールが肩に当たってきた。
「シェリスに見せつけましょう、もうお前は私に口答えが出来る身体じゃないとねぇ？　うふ、でも向こうは、口だけ達者で弱い娘への関心は薄れてきている頃合いかしら……」
「む……ぐ……ひゅきゅ……ぅぅぅう゛ううっっ!!」視界が天地裏返るほど顎を突き上げさせられていた少女は、恐れていた思考を探り当てられて瞳に激昂の涙を滲ませる。
　自分は誰も殺せていない。証を立てられていない。戦慄く小さな尻えくぼを擦りつけ、卑猥な熱気に当てられて汗ばむ肌から垂れる汗の雫を足元の真紅の布に染み込ませる。
　既にショーは始まっている。淫蕩な本性を曝かれて抗えずに堕ちていく魔姫と、後を追うように猥乱に開花させられていく娘との絆が破壊されていく様を愉しむ演目が。酒杯片手のシュプレヒコールじみた歓声に囃し立てられ、向かい合わせで犯される少女二人。
「ゲケケッッ、畜生ガ！　糞忌々シいっタらねぇが、今ハ楽しマせて貰うかヨッ！」
　全てを仕組む淑女に背後から押し倒されて、ドギー・スタイルに体位を変えて組み伏せられる装飾少女の眼前で、憤怒と屈辱を滾らせた柩の怪物が好色な涎を垂らして動き出す。
「て、手を出すなぁぁぁっ！　私のシェリスに……っ!!」
「ヒッヒッヒ、見てロよ、シェリスエルネスの娘ェェ……一番槍は俺ガ決めてやラァ!!」
「っぐぅ、ン！　ひきゅぅぅぅ……ん……、――ぁガッ！」
　長櫃から溢れ出した干涸らびざらついた皮膚の腕が肢体を掴むシェリスエルネスの装束は、夜珂の娼衣。完ミッドナイト・ウェディングドレス熟の兆しを見せる艶めかしい肌に直接、サバトの印章の如く、レオタードの面積を極限にまで切り詰めた際どい紐水着といった感のあるエナメルブラックの過激なコスチュームが貼り付いている。
　裸身に刻まれた堕美の刺繍の上には半透明の靄。ショールとガウンが一体となったような娼婦じみた妖しいローズレッドの羽衣が纏わされ、腰から下でふわりと膨らんで、介添人無しでは歩くことすらままならなそうな長い裾の幻惑的なスカートになっている。ドレスの要所から伸びる禍々しい鉤爪が、厭らしい重圧を獲物の肌に食い込ませていた。
（わ、わた、私がっ、こ、こんな、ふざけた衣裳を着せられるだ、だなんて……！）
　頬が恥辱に燃え上がる。常夜の姫君にとっても、この姿は屈辱的だった。何せ婿を取る時は首輪をつけて椅子代わりにして披露宴に臨もうと思っていたくらいの彼女である。女ばかり着飾らせて見せ物にされるこの衣裳はいかがわし過ぎて、かねがね嫌っていたのだ。
　長い睫毛をだらしなく伏せた紅潮した面立ちが、半開きだった唇を弱々しく噛む。
（ランセリィ……！　もう貴方にこんな無様な格好しか見せられませんの……？　もっと、もっと、しっかりしなければなりませんのに……！）
「昔喧嘩したっけねぇ、それは男を征服した女が勝ち名乗りをあげる戦装束じゃない？」
「どうでも、ぃいからぁっ、そんな服、今すぐ破れぇぇぇっっ！　は、離せっ、っぅ、かきゅ……ぁぁ！　ひっ、きゅひぃぃぃぃいいいぃぃぃぃ……っっ!!」
　陵辱の悪魔に魅入られた娼婦街の花嫁が被るのは、下顎の無い山羊の頭蓋骨を帽子代わりにしたシャポー・タイプのウェディングベール。上顎の歯からダークレッドのヴェールが流れ落ち、上気した怜悧な貌を覆う。頭頂部で横一列になった黒百合のコサージュからは、ローズレッドの半透明なベールが紫髪に寄り添って背中から踵にまで流れ落ちている。
　シェリスの折られた右角を嘲笑うように頭蓋骨から伸びる山羊角は、断面が三角調で根元は太く、先端も逞しい。通常とは異質に、横に伸びて後ろにぐるりと一回転捻れながら本人の角を迂回して耳の裏や頬の横を通り、顎を撫でるように囲んで下に伸びている。
「ゃ……ぉ離し、なさ、い……っ！　ふぁ…ぁぁぁっく!!　こ、これいっ、以上ぅぅう！　あの娘の前でぇぇぇェェェッッ!!」「ツれねぇこト言うんじャねぇヨ。俺ハてめぇを喘ガせたクて命ぃ落とス羽目になッたんだゼ?!」
　太い鉤爪が薄紅のベールの上から魔姫の乳房を鷲掴む。テンポの速いＢＧＭに合わせて荒々しく揉まれ、弾んで喘ぎ始める、中央に一本の黒革のラインを引いた白い毬。暴れて近づこうとする魔少女はチョーカーの裏に指を入れられて、ぐいと後ろに引き戻された。
「有象無象のチンカス揃いだからかしら、前ならとっくに堕ちているのに、今夜のシェリスは御機嫌斜めねーぇ。負け犬娘の眼なんか気にせず、選り取り見取りを堪能なさいな。お眼鏡に叶う奴は居る？　お前から指名したって構わないのだけど」
「っぁ、こ、この連中の誰にっ、この身を許すものですか……っ!!」
「そウかヨォ？　俺たチゃァ、あの糞忌々シい占イ札に見せらレて、てメぇが口先だケで我慢しナがらヨがってく一部始終ヲ知ってルんだぜぇェェ……!!」
「な、なんです、って？」懸命に取り澄まそうとしていた貌が、ショックのあまり蒼瞳を一瞬見開いた。下品な嘲笑に崩されていく矜恃。屈服体験を思い出したアーモンド型の瞳が、貴貌を隠す喪服じみた紅いヴェールの奥で快楽に澱む。数え切れない男根を食んできた唇が、熱い官能の記憶に打ち震えながら戦慄く言葉を吐き出した。
「あれは……私の本性……ッ……だけどそんな物、気力でねじ伏せて……っ!!」
「大層ナ起き上がリこぼしぶりダなぁ、てめぇハ!!　何度も立チ直る代わり、直ゥぐに転ビやがル。犯っテて面白くてシょうがネェ。だかラこそ徹底的に壊シたくならぁヨ!!」
　紐水着の乳房と腹部の間に出来た隙間に無数にある腕の一本を差し入れて柩の怪物。淫らな牝の本性が周りに被っている薄っぺらな理性を剥がしにかかる。麝香を織り込んだ生地には赤黒い百合の透かし彫りの刺繍が施され、グロテスクな美を放っていた。
（うあ……シェリスの肌、すごく綺麗……！　こんなこと考えてる場合じゃないのにっ）
　肌を包んだ衣の内側で汗の露が燦めいていた。飴玉の如く輝く魔姫の肌が吹き寄せる欲望の渦にしゃぶられてべとついていく。ランセですら見とれる美身が目前で穢されていく。
「ぅふ、いけないママだこと、娘の前で堂々と浮気？」
「ひ、ひんっ！　ヴュゾフィアンカァァァ……それ以上言ったら許しませんわ……ッ」
　揶揄に打擲される滑らかな肩をミイラじみた悍ましい怪腕が捻ると、被虐の官能に牝肉が咆哮を上げて波打った。腹部の滑り台を乱雑に撫でられて幼児返りした長身がむずかる。
（詰られると芯が熱くなりますの……これ以上私を追い詰めないでぇぇっ!!）
「軽いケツしやがッて、穴という穴ぁ、閉じなくなるマでお仕置きだナァッッ!!」
　一瞬それは、柩の下から長いベロが伸びたように思えた。重量感のある茶褐色の軟体が先端に幾つもの鈍い棘を備え、狭間に涎じみた粘液の糸を引かせている。柔軟な筋肉の寄り集まった太い胴体で紅布を擦り鎌首を擡げる。長大な裾に潜り込んで腰下に押し当てられたシェリスが「っ」と息を呑み、正体を看破した客席からヒュゥと口笛が飛んだ。淫汁に満ちた棘付きメイスモルゲンステルンを思わせる凶悪で歪な牡の生殖器官が、ばっくり開いた鈴口から饐えた臭気を吐き出しているのだった。
「これデてめぇの中をゴリゴリ掻き混ぜてやるゼェ！」
「～～～～っっ!!」
　三層になったスカートの正面は、臍下から左右に舞台の暗幕が開くように人の字型に分かれている。勿体つけて最後まで残っている下層を掻き分けて、Ｔバックそのままの食い込みを見せる紐レオタードを引き延ばし、中央の切れ目の筋に棘鎚男根がねじ込まれた。
「ぐ……ぅぁぐうぅぅぅううっっ!!」すっかり解きほぐされた膣の深い部分の粘膜を暴淫のスパイクに抉り小突かれ、紅色に爆ぜる快美な電撃。鴇色の襞に刺さる一本一本に恍惚の寂光で網膜を灼かれ、囚われのカナリアは喉を嗄らして啼き叫ぶ。
「ギァハハハァァァッッッ!!　イい様じャねぇカ、シェリスエルネス。なまっチろい雑兵どモで気ぃ出せタんなら、俺たちぃに輪姦さレたら廃人だナァ！　あん、それとも雄はヴァギナの前に平等ってカ？　太くて固ケりゃ誰でも同じかヨ、お心ノ広いお姫様だゼ！」
　ドッと観客の笑いが零れる。黒猫人間と同じく提案を拒否した死体を椅子代わりにして、淫らで絶望的な享楽の宴に耽るのだ。身を捩って悶える魔姫の口腔に指が突き込まれる。
「オラ、しゃぶレ！」
「ぅむ――うむうううう!!!」
（なんて生臭い指の味――ッ、低劣な私にはお似合いっ、ですわ……そう考えると脳の襞が蕩けるみたいに目が眩んで……いつもこうなって、後はずるずる……!!）
　息を整える時間が欲しい。嗚呼、そうすれば体勢を整えて無様を晒さずに済む筈なのだ。
「辛そうダなぁ？　素直に口ィ回しゃ、チったぁ手ぇ止めて休ませてヤってもいいゼェ」
　柩の怪物がそう持ちかけてきたのは、頭にそんな考えがよぎった絶妙のタイミングでだった。同時に、ばくばくと陰唇の開閉を繰り返し、あたかもそこで呼吸をしているかのような腰が、ガツンガツンと衝き上げられる。ぷつんと気丈の糸が断ち切られ、迷う自由など与えられず、魔姫は言葉を吐き出させられる。
「言エよっ、てめぇハ何もんだぁァァ?!」
「わらひっ、わらひぃぃぃっ、誰のチンポでもつっこまれてよがり狂う淫売ですぅぅぅっ!!　ぁひぃんっっ！　はしたない花嫁姿で見ず知らずの男に視姦されて、乳首もお豆も尖らせてますのぉぉぉぉ!!　ぅぁ、犬が、野良犬が私を嘲笑ってますわぁぁぁぁっっ!!」
　醜悪に顔を歪めた狂喜の怪物の腕が風を受けた樹木の梢の如くさざめき、淫欲の篭となって白い肌を閉じ込め、猥褻な揉みしだきによる触虐の限りを尽くす。歯止めの効かなくなった魔姫を残酷に追い立て続けた。絶叫を吐き出す白い肉筒をゴツゴツした掌が握り込み、陶磁器の肌を上下に擦って電撃的摩擦で愛撫する。脳天を貫いた快感が旋毛で爆ぜる。
「キヒぃぃぃぃぃぃイイイ!!　イヒィィィィィッッッ!!　め、雌犬に餌をあげひゃらめぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
　端から陵辱の嵐が止む筈もなく、見るも淫惨な落花を遂げていくシェリスエルネス。
　下顎のない山羊の眼窩は何も映さない。何枚も重なって曇り硝子の艶を見せる生地の奥で艶やかに撓む乳房が両側面から掌に挟まれ、プレス機の間で圧迫された。
　――ぎゅむっ、ぎゅむゅぅぅぅっっ！　ッ――グリィィィィィ!!
「ぃ、ぁぁぁぁぁああああっっっ!!」
　ニプルの尖ったバベルの塔の天辺を神の雷とばかりに親指が打ち砕き、潰して豊かな肉塊へと沈み込ませる。四肢の随まで歓喜に撃ち貫かれ紫髪を逆立てて泣き喚かされた。衝突して歪む白い隆起の陰翳に挟まれる場面を想像した会場の男たちが勃起するのを感じて女の恍惚がつんざめく。嘲りで指を笑わせ、使役される苛立ちを興奮に転化させた柩の怪物が盛大に腰を振るうと、鋭利な顎が跳ね上がり、引き延ばされた嬌声が迸ってしまった。
「んおおおオオオッッッ、しゅごっ、しゅごぉぉぉぉぉぉっっ!!　膣なかでグネグネェェェェェッッッ!!!　ひくゅびいいいぃぃぃぃぃイイイッッッ!!」
　ガクガクと腰を痙攣させて、快楽で煮崩れた貌が熱い涙を流す。娘の視線すら背徳の火勢に薪としてくべていく己の性癖をシェリスは心底憎んだ。
（もう、意気揚々と人界に降り立った頃の穢れていない身体を思い出せませんわ……ぁ）
　ビリィッ！　とドレスの胸が引き裂かれ、両の乳房がまろびだされる。
「ひヒっ、ウめえ、うめえナぁっ、クソガキにやらレた傷ガ癒されル気分だゼェ……！」
　ギュム、ギュムッ、と鉤爪に麓から掬い上げられ、縦横無尽に形を変えていく牝肉の餅。奥に溜まっていた液体を搾り出される、身の痺れる恍惚が犠牲者を襲う。乳搾り人形の胸部からピュッピュと押し出されて虹を作るミルクはまるで小さな噴水だった。
「むぐ……ふぅ……ぁ……ぁぁぁあああっっ！」
「母親なんだからミルクをあげなきゃねぇ？」
（あぁ、絞り出されてしまいますの……ランセリィ……の前で…………イヤ…………!!）
　尊い母性を淫靡に堕落させた魔姫の向かいには、禁忌の蛇の抽送に喘ぐ魔少女。
（わたしは娘っ、シェリスの娘で、本当ならあの隣に居て、ああしてやってなきゃいけないのに――!!　他人にされてる格好なんて見たくないのに、犯されてて力が入らないっ）
　被虐に塗れてますます美しくなっていくシェリスの貌。ランセリィの頬に甘い芳香のする白い体液がピッピとかかる。
「何かお母さんに聞き苦しい弁解はあるかしらー？」
　更に心を打ち拉がせる為に顎を撫でてこようとしたゾフィアに――、
「――ッッ!!　るさい!!」と、思いっきり頭突きをかました額へ湾曲した角サークレット・ホーンの少女は、瞳一杯に涙を湛えて、ドレスの心臓の辺りを握り締めた。
（こんな時にこんな感情……っ！）
　緑蛇の抽送を受けて熱い息を肺から押し出す度に、己への歯痒さと悔恨が喉をえずかせる。シェリスの姿形が目に入ると、胸が五寸釘を打たれたかのように痛い。
「うう――ッッ！」ボトボトと涙滴が落ちる。
（違う違う違うっっっ！　わ、わたしがこんな気持ちになるんじゃないっ、シェリスをさせてやらなきゃ……っっっ！）
　母乳の媚薬じみた甘い芳香にくらくらとさせられる。重くなった頭が落ちそうになるのを振り払って、ランセリィは八重歯を剥いた。
「最っ低……覗き……？　よくも見たな、シェリスエルネス……ッッ!!」
「『わたしを嫌いにならないで』？」
　めげないゾフィアに耳元でそう囁かれると、ビデオの高速早送りでミニトマトの完熟を見るかのようにみるみるうちにランセの小顔が真っ赤に染まった。
「――ん゛う゛……ラ゛、ン……ッ」
　咽頭を塞がれたシェリスエルネスが必死に放つ、今にも掠れて消えそうな声に、胸を押さえた少女は爆薬のように反応した。心臓が爆発しそうな切ない動悸に任せて泣き叫ぶ。
「そんな哀れんで余裕ぶった目で見ないでっ！　い、今すぐこいつら挽肉にして――ッ」
　かつてそうしたように猛獣は左肘から角を生やしてゾフィアの腹部を刺そうとし、凶鳥の目配せで不承不承前方から伸びてきた怪腕たちに暴れる前に押さえつけられてしまう。
「あぁ、突っ込み入れたくてしょうがないわ。しょうがないったらしょうがないっ！」
　身悶える淑女が蛇尾を肢体と同じくくねらせて、恥ずかしげに何度も少女の膣を小突き上げる。そして不意に冷酷な顔を覗かせると、半尖りの耳にゾッとする声音を流し込んだ。
「もう、ご託は良いわ。飽きた。喚く前に行動してちょうだい。私を殺して落とし前を付けない限り、一生シェリスの傍にはいられないのよね？」
「く……ぅぅぅっっ!!　ぅぁ――あぁぁぁ…………っ！」
　両肩を押さえられ膝立ちにされた、前屈みのドギー・スタイルに容赦なく重厚な抽送を繰り返して愛液を掻き出していく緑鱗の悪魔。肢体が快楽に蕩け落ちそうな錯覚を覚えて、少女はよがりくねる。そして、姦獄に落ちた虜囚たちにけたたましい嬌声をあげさせるべく、グスフェラトゥの奇怪な腕がわらわらと二人に伸びた。
「特別だぁ、貧弱なてめぇもタっぷり可愛がってやるゼ……ッ」
「やぁぁぁぁぁっっ、やああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
　俯せで無数の腕の槍衾に衝き上げられるランセ。膨らんですらいない薄い隆起を摩られる。ピーチクを摘み上げられ捻られるのは、落雷を受けた大木が裂けるような衝撃だった。
「ほぅら、リトル・レディ。競り合う殿方の前で立派に嬌声をあげてアピールなさい？」
　子宮頚管に舌をチロリと差し入れられると、それだけで官能が爆発し、達してしまう。
「おオ゛おおおぉォぉぉッッ!!」
　両の二の腕が掴まれ手羽を締めるようにして後ろに引っ張られた。拘束リボンを腹部で引っ掛けながら祈るが如く胸元で拳を握り、脚を蛙のように曲げて全体重を蛇根にかける。爪先から頭頂に跳ねた髪房の一本に至るまで凶女の齎す快楽に支配されてしまったのが、自分でも分かってしまった。
　シェリスなど更に酷い。御馳走に喰らいつくピラニアの群れに全身を痴漢レイプされ、まるで花嫁娼婦装束の魔力に囚われたかのように、めくるめく痴女の恍惚に浸らされる。
「ぁォッ……ぅ、ふぁ……ァ……っ！　っぎ、ひゅぎぃぃぃぃっっっ!!」
　そして足首を掴んで横に開かされＭ字に開脚、乱暴に手首を吊られた万歳の体勢で異形のペニスに腰掛けて、液垂れする乳房を衆目姦視の只中に放り出されるのだった。仰け反った背筋に沿って添えられた生肉掌のジャッキに支えられ、迫り出すバストが悩ましい。
　肉体を使った生け花が咲き誇る。手始めに群がった掌たちに乳首を摘まれ、メロンが紡錘形になるまで引っ張られた。火箸を先端から突き込まれて中身を徹底的に掻き混ぜられるような快感に絶叫が迸る。二本指で根元を強く圧迫されてニプルが薔薇の蕾を形取ると、その締め付けが緩められる度にホースの原理で勢いを増した奥の母乳滞流が真っ赤に腫れた肉塔からミルクの噴水を高々と噴き上げる。舞台の端にまで飛び散る魔性の甘い芳香で、会場を熱狂に包み込んでいく。
「涎ェェェ、見ない、ヒィィッ、で、こんなことォォォ、されて、だらだら流している私をォォォ……オオオッッウ！」
　恥態を観衆に見せつけさせられて、男たちの欲望の目線に応えるように四肢をくねり蠢かせるダンサー・プリンセス。桃色に明滅する視界が悦楽の絵筆に塗りたくられる。
　興奮で逆ハート型に膨らんだ臀部のボリュームが、尻たぼの棘鎚ペニスの激しいピストン運動で串刺しにされ蠕動する所を、掌の集合した椅子の上で盛んに練り上げられ、泉が湧き出るように滾々と快感が溢れ出す。止めに尻尾の根元をバチンッと強く弾かれて、尾骨から全身の骨に駆け巡る甘く痛切な恍惚に、情けなく声が裏返ってしまうのだった。
「ゲヒヒヒッ、クソ餓鬼には、こんななぁどうだぁ?!」
　――ズヌリ。小指だろうか。粘稠な愛液に塗れた複雑な曲面を持つ指先がランセリィの包皮の奥に突き込まれ、肉芽の根の周囲をぐるぐると狂った犬の如く駆け回り始めた。
「か……！　く……う……！　うっ、ぅぅぅぅぅぅっっ!!」
　快楽の喫水線が浮沈を繰り返し、網膜で法悦のめくるめく閃光が幾度も走る。ランセリィの爪先が永遠にも思える伸縮を繰り返し、軽いアクメの連続が理性に罅を入れていく。
　屈辱。歪んだ憧憬が母胎の目前で絶頂を極めさせられる度に踏み躙られていく。不甲斐ない己が無力への絶望。凌辱者たちの嗤笑への憎悪。万華鏡の如き負の感情が幼い心を千々にかき乱す。感情が爆発し、平静を保つ羅針盤コンパスを失った彼女は全てを拒絶するかのように叫んだ。
「シェリスを出したりこいつら嗾けたりっ、一人じゃ陵辱できないのか腰抜けぇぇぇっっっ！」魔少女の目尻に浮かぶ涙を愛おしそうに舐めながら、鴉翼の淑女。
「如何様にでも言って頂戴。でもそんな泣き言を喚いている間に、こいつらにシェリスを取られちゃうわよぉ？」
「グヘッヘヘヘッッ！　ンな餓鬼に吸わせルにゃぁ勿体ねぇ甘露だゼェ!!」
　好色丸出しで首を伸ばしたグスフェラトゥが、乱杙歯で乳房に噛みつき母乳を啜った。途端に喉笛を晒して仰け反り、吸入感に脳髄を啜られながら痙攣する常夜の魔姫。舞台の下から野卑な欲望の視線が物理的な圧力すら伴って押し寄せてくる。舞台の紅布を捲り上げそうな勢いの熱気に煽られ、蒼瞳を潤ませた黒衣が哀れにくねる。
　――ジュルッ、ズジュルルルルル゛ッッ!!
「はぁぁ、はぁぁぁぁっっっ!!　アハぁぁぁはアぁぁァッッ!!」
（シェ、シェリス……ッ、こんな奴らにまで身体を反応させてるの……?!）
　その光景を熱に浮かされた頭で見ていたランセリィは、自分だけが除け者にされているような疎外感を覚えた。海で泳いでいる内に沖に流され、岸に戻ろうと手足を動かしても波の引き摺る力の方が強くてどんどん陸地が遠ざかっていくような、そんな不安な感情だ。
　軽蔑と同時に激しい嫉妬の炎が燃え上がる。
「……わたしが居るじゃない……頭を下げて頼めば幾らでも嬲ってあげるのに……っ！　そんな奴らと!!」
　ランセリィが憑き物じみた眼を白い奔流を噴く熟れた乳房に向けると、己の姿を恥じたシェリスが拒絶するように四肢を振り回して捕り押さえられる。振り切るようにこちらから目を逸らされて、ズキズキと心が痛んだ。
「ほぅら、ビッチにあげるお乳は無いんですってー？」
「……何で……拒むの……？　得意の物欲しげな顔で強請ってくればいいじゃない……」
　それが当然の反応とはいえ、魔姫の仕草はいたく魔少女を傷つけた。疼く身体が、病巣のような恋心が、心の均衡を失わせていく。嫉妬の焔。苛烈な純情が、猛毒となって心を狂わせる。胸の奥で仄昏い情動が沸き起こる。生憎とランセリィ・Ｋ・シェリスエルネス、靡かない相手は力ずくでねじ伏せたくなる性分なのである。
　無意識の内に右手の薬指に背徳的で攻撃的な魔力が集中していく。世界を侵す能力を秘めたそれが、漆黒のクレヨンを厚く塗りたくったような破滅の膜に覆われていった。
「ぅ、うう……シェリスエルネス……わたしは……シェリスエルネスを……!!」
「ム゛……ぁめ゛……っ、……ぁ、ゃ……め……ラン――!!」
　むずかるシェリスの嗜虐心をそそる顔を見て頭の中の何かが弾けた。
（シェリスを……奪ってわたしの物にする！　敵に乗せられてたっていいっ、これ以上一秒たりとも、わたし以外の誰にも触れさせない！）心の黒い部分が制御できない。
　――ズグン……ッ。刹那、子宮のフレスコ画が俄に火口で衝突し合う溶岩の如き黄輝を放ち、瞬間的なその劣情に焼け爛れた忌まわしい鉤爪を突き立て深く意識に焼き付けた。脈動の一つ一つが淫らな衝動と同期し、刷り込むように増幅させてくる。
　腐敗した快楽の牙が脳髄に突き刺さり、それ以外の感情も思考も麻痺させてくるのだ。
　――ガツンッ、ガツンガツンッッ!!　ガツンガツンガツガツガツンッッ!!!
　薄く笑ったゾフィアが大きく尻尾を振り、岩を鎚で叩くような激しい抽送で理性的な思考を掻き消してくる。少女の意識を一番大切なことのみにしがみつかせていく。
「そう、お前はシェリスエルネスを独占できる力を持っている筈よねーぇ!!」
　シェリスだけを収めた蒼い妖瞳が、きゅ、と締まった。もう母親しか目に入らない。自分だけの魔性の力。奸言に操られた薬指が、痛切な苦悩に軋んで強張る。
「うう……ぅぅう……く、ぐぅぅぅぅぅっっ!!」
「Go off!!イっちまいなさい!!　この場で気遣いなんて無用の長物。欲望のままに望む事を為すの！」
　首と胸に腕を回してうなじを舐めてくる呪占札の魔女の抽送に押し出され、鈴の音の煩悶を雄叫びに変えて膝小僧を妖しい紅布に擦りつける。黒緑の螺旋に戒められた両腕を前に突き、力の入った指先で踏み躙るが如く布に皺を作る――。衝動の任せるままに這っていけば当然ながら近づくにつれ、白い噴乳を浴びる量が多くなるのだ。自分の母乳で娘を汚していることに気づいた魔姫が悲鳴をあげた。
「そんなにわたしに近づかれたくないのかなぁぁぁ?!」
　ラッピング・リボンに腕を縛られた少女は、そのまま紫髪の魔姫の胸に身を投げ出す。餌にがっつく黒豹の赤子の如く、爪で朱いヴェールの衣裳を裂いて乳房を剥き出しにする。
「ハァ……ハァ……ッ、誰にも見させない、わたしだけの物にしてやる……！」
　体重を乗せて掌の膨らんだ箇所を母胎の胸に押しつけると、驚くほど柔らかな触感に襲われた。紅寒天の如く曇って震える百合模様の薄生地から、新鮮なブラマンジェもかくやの乳房がまろびでる。湿ったマシュマロの弾力が弾み、コーティング用チョコクーヴェルチュールのパイピングじみたコスチュームが、甘腫れした肌の硬いアクセントとなって脳髄を痺れさせてくる。
「シェリスエルネスは、わたしが、食べてあげるのっ、身も心もっっ!!」
「怪我の功名だわねぇ。たっぷりと因子を注がれて腐泥の王の眷属としての衝動が強くなったみたい。いいわ、見せて？　憎にっくき仇に侵蝕されて母親を貶める娘なんて最高のショーになるわ！」ヴュゾフィアンカがきゅっと少女の官能神経に直結した恋札を握り込む。
「くぁぁぁぁぁぁっっ!!　ああ、ああ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!　わた……シ、シェリスを食べる……!!　シェリス大好き……食べたい……!!　シェリス好きぃぃぃ……食べたいよぉぉぉ……、食べたい……よっ!!」
（この娘……本気――！）狂った愛情を向けられた山羊頭の花嫁の背筋に戦慄が走った。
　ウェディングドレスの折り込みパイ生地フイユタージュを掻き分けて、ランセリィが開脚した太腿と臍の間のＶ字の谷間に跨ってくる。喝采を受けながら踊る、黒緑のオセロ・パターンバタフライ。
　羽毛の如き心地良い感触が魔姫の腰に掛かり、勃ったクリトリスを刺激してくる。背筋を打つ小さな電流。吐息を交わせる距離に迫った、ラッピングされた攻撃衝動の塊が、体温の高い肌を甘えるように悪辣に密着させてくる。飢えた獰猛な笑みを浮かべ狂的な思考に酔っている。それを見たシェリスの胸の遙か深い部分で、ドクンと禁忌の衝動が疼いた。
（いけない、こんな感情……!!）
「なぁに、可愛い私に迫られて興奮？」
　奥底の情動を隠そうとした魔姫の些細な表情の変化を目聡く捉えて、魔少女が観衆に見せつけるように声を上げた。泥遊びのような無造作な仕草で、すっかりミルク化粧のされた乳房を両脇から寄せ上げる。桜色の先端を口腔に押し込まれると、従順に調教された真珠色のエナメル質が思わず閉じ、自分自身に快楽の麻酔をかけてしまう。
「んふ……ひ……っ！」
「んダぁ？　てめぇ、急にマンコ締め付ケやがったナァ？」
　陵辱者の尖兵として取り込まれつつある魔少女に調子を合わせた棘付きメイスの持ち主が腰をぐいぐいと衝き上げれば、己の両乳首を咥えさせられた魔姫の唇の端から垂れ出す唾液を見て、ランセリィが甚振る笑みを浮かべる。
「さぁ、始めるよ……わたしの奴隷にしてあげる!!」
　患者の命の全権を握る殺人医師が、唇に沿わせた薬指をペロリと紅い舌で嘗めた。
　細い薬指の腹が、恥ずかしげもなく母乳を噴き出す左乳房の麓に、ぐい、と押し込まれた。凹まされた肌が大量の蟲の脚に這いずり回られるようなむず痒さで魔姫を責め苛み始める。『頽廃の薬指』。少女の持つ、対象の内面の澱を噴き出させる魔性の能力。
「ヒ……んはっ、ゃ、め……っ、おやめなさい、ラン――ッッ、ァァァアッッ！」
　――ズブリッ!!
　左乳房の下に薬指が勢いよく突き沈まされ、制止を黙らせた。極上のバニラアイスに熱したフォークを沈ませるが如く、容易く人知を越えた穿孔を穿っていく。指の根元からはビターチョコレートを湯煎したようなドロドロとした心のマグマが湧き出し、魔少女が淫蕩な笑みと共に凶器を引き抜いた、その刹那、
　――ブジュッズッッ!!　まるで良く振った缶ビールの側面に穴を穿ったような勢いで黒い蜜が噴き出した。それを顔に浴び、もう一度突き刺した指先をくいくいと動かすと、ビクビクと痙攣した魔姫が頭を抱き抱えてくる。
「ヒ、ヒグゥッッ！　ぅぁ、は……っ……！　ゥァグァァァゥウウウ゛ッッ!!」
　シェリスエルネスを焦熱地獄の快楽が襲っていた。全身の熱が孔に集中し、白粘土を寄せたように丸く盛り上がった縁が、少女の環指に擽られて肉芽並みの感度を放つのだ。
「シェリスゥ……わたしにはおっぱいじゃなくて、こっちを頂戴……？」
　ランセリィは目尻を紅く染めて、白いミルクと対照を為すどす黒い蜜に唇を近づける。唸りを上げる豪流を音を立てて啜ると、負の感情の苦く甘ったるい味が口腔一杯に広がった。味蕾で転がる檸檬のような悲嘆の酸味、ヌガーの如く固まった諦念の舌触り。淫欲の発汗作用のある猛毒じみた砂糖味。裏に忍び寄る絶望のビターチョコが脳を刺激する……。
（この味を知ったのはわたしが最初……誰も知らないシェリスを味わってるんだ……っ）
　そう思うと蕩けるような独占欲が思考を真っ赤に染めていった。乳房を掴みねじり上げ、負の感情を絞り出す。心臓が早鐘を打つ。唇に舌を這わし、観客に見せつけるように嚥下した。飲み干す度に唇の端から零れる粘ついた雫が贈答装束を穢していく。
「はハハっ。あアははははハはははハハハハハハハハッッッ!!」
「ヒィ!!　クヒィィィィッッァァァァァッッ!!」
　魔姫は射精に似た感覚を伴って、黒い蜜を吐き出し続ける。吸われる度に、これまで受けてきた陵辱と屈服の記憶が洪水となって脳裏に押し寄せてきた。それは甘露を直接前頭葉に注がれるに等しい幸福で、胸を突き出し、もっと吸って欲しいと懇願してしまう。
「ふん、取り澄まそうとしたって中身はドロドロじゃないか！」
「み、見ないでぇぇ……！　こん、なこと…ぁは……だ……ぅく…くぁぁぁ、め……！」
　堕ちた身で決して我が娘に触れるまいとでも言うのか、乗っかったラッピング・リボンから逃げるように太腿を開き、万歳から懸命に降ろした腕の肘で娘の肩を押し返そうとする。後ろに直角気味に曲がった腕は、まるで背後のグスフェラトゥに縋り付いているようにすら見える。反らされた上体に豊かな双乳で頬を叩かれたランセリィは、カッとなった。
「伝わってくるよ、シェリスエルネス。出来るならここの奴らを皆殺しにして、早く一人になりたいと思ってる。自分の趣味の悪いアクセサリーがジャラジャラある部屋に戻って、永遠の夜で自慰に溺れたいと思ってる。あぁ、でも、魔界に戻るの面倒だから人界で済ませるのかな～？　茜の家のお風呂場で、召喚したスライムでもお尻からひりだしてみる？　わたし、手伝いたいなっ！」
（ああ、そんな、私は……！　曝かないでぇぇぇ……！）
　高潔な常夜の魔姫の仮面を外されて、ただの陵辱の後遺症に責め苛まれる少女の部分を、剥き出しで衆目に晒させられていく彼女に会場の嘲笑が降り注ぐ。
「駄目なお母さんだね、シェリス。貴女をちゃんと見てあげられるのはわたしだけなのに、そんなことも分からないんだ……？」
　昏くほくそ笑んだランセは母胎の背中に左手を回し、右手を脇に添えた。ふくよかな左乳房の根元に小鳥が水を飲むように唇と小鼻を押しつけながら、陵辱のマウントポジションで花嫁の肢体を揺さぶると、膣底を生肉のスパイクで嬲られ襞を引っ掻き回される魔姫が快楽の悲鳴をあげた。
「嫌がる素振りを見せてる癖に、そいつのペニスだって良くって堪らないんでしょ？」
「こんなっっ、醜悪な物にぃぃぃっ、わたくしぃぃぃっっ!!」
「そレを突っ込マれてデカ尻ケツぅグイグイ擦り付けて来てンなぁ誰ダァァ?!」
　半狂乱になって拒絶する紫髪の少女を、偽りの共同戦線が悪辣に籠絡していく。
　――ハァ……ハァ……ッッ！　縺れ合う二人の少女の荒い吐息が木霊する。想い人を抱擁しながらランセリィは、自分から激しく膣を緑鱗のスペードに打ち付けた。
（だめ……わたし、イヤらしいのが押さえられない！）
『好き』が暴走していた。支配したくて堪らない。独占したくてどうしようもない。矜恃を腐敗させながら少女は舌を夢中で孔に押しつける。口の中でシェリスが泣き叫んでいるかのようだった。
（ハ、ハハ――！　シェリスの味、凄い――凄いよ！　舌が蕩けそうに甘くて、脳がズタズタされそうなほど苦くて、最高!!）
（ああ、この子の能力だめぇぇぇぇ！　私の全てが晒されてしまうぅぅぅ！）
「言ってあげるよ、シェリスエルネス。お尻に入ってないの寂しいんだ?!　先っちょだけでペニスに根元までトゲが生えてないのが不満？　本当は若いわたしが怖いんだねーっ、周りの肉棒が奪われそうで!!」
「ゲ、ゲ、ゲ！　ペニスの槍衾がオ望みってかヨ。後でタっぷりくレてやらぁナ!!」
　時々嘘を交えて嘲笑すると、快楽と哀しみに染まったシェリスの貌が堪らなく心地良い。
（……っ、この娘、本気で私を壊すつもりですわ！）
　マゾヒスティックな性癖全開の魔姫は、徹底的に破壊される愉悦を想い、興奮した。
（あぁぁぁ駄目、考えては駄目、肉の蹂躙なんて夢想してはいけませんの……っ!!）
　そんなことはランセリィにはどうでもいい。柩の怪物に嬲られることで勢いを増す黒い蜜を浴びて恍惚に浸る。乳首轡をしっかり噛ませ、脇腹に右指を固く食い込ませた。
（ふん、自分のことでばっかり悩んで、わたしのことは全然見ないんだ？）
　この期に及んでシェリスが必死に自分に隠している部分があるのが気に入らない。管が詰まったように意固地に本心を出て来させない、固く秘められた想いがあるのだ。
　――曝いてあげるよ、二度と外を歩けないくらい。だから世界の底でわたしだけを見て……！　シェリスは卑しい卑しい肉のお人形、潤んだ瞳をご主人様にだけ向けるの……!!
　まるで母乳をねだる赤ん坊だ。シェリスのたわわな乳房を頬で押し退けて、顔を横に傾けて孔を吸う。胸を触ると乳首が尖っていて、体温は高く篝火のよう。湿った息遣いが耳に届き、拒んでいる筈の肉の動きが逆にランセを押し包んでくる。
（シェリスだって感じてるじゃない……このマゾ、娘に嬲られるシチュに悶えてる！）
　敵たちの眼前で、水を飲む姿勢の浅ましい獣がピチャピチャと音を立てる。魔姫が必死の抑圧しようとしている部分を解放していく。その舌が、心の中核――誇りを捉えた。シェリスの身体がぴくんと跳ねる。
　――これか！　これがシェリスがわたしに靡かない原因かぁぁぁっっ!!
　娘に対する遠慮を感じる。飴玉をしゃぶるようにそれを口腔で転がすと、くぐもった嬌声を精一杯甲高くして、まるで命の危機であるかの如く盛大に仰け反り回った。
「オオオォォォ――！　もう、ゃっ、ゃめてっ、ランセリィィィィッッ！　これ以上は取り返しのつかないことにぃぃぃぃっっ!!」
「そうだよね、シェリスはわたしの奴隷になって後戻り出来なくなるんだよねーっ!!」
　自らゾフィアの蛇に乗りながら、奸臣達の嗤笑の潜む偽りの王座に乗った暴君が、啜りながら上目遣いで八重歯を剥いた。下から乳房を鼻で突っつき、愛欲の海に溺れていく。
「もう止まらないの――、わたし、敵に犯されながらシェリスを犯して感じてるよぉぉぉぉっっっ!!　アハハハハハハハッッ！　言ってご覧よ、わたしの前でそいつのペニスがもっと欲しいって！　どうせ隠してる感情なんて、娘の前でお強請りは出来ないとかそのくらいでしょ?!　ばればれなのにさ!!」
「ああぁぁ、だめ……だめ……ぇ……！」
　この期に及んでそんな言葉しか漏らさない母魔。前髪ごと額を豊かな胸の谷間にグリグリと押しつけながらランセリィは、悔しさのあまり常軌を逸した行動に出た。
　――こんな物があるから……シェリスがわたしに身を委ねないんだっ！　誇り、理性、わたしに引け目を感じる緩い思考っ、そんな物――っっ!!
　八重歯の奥に力が籠もる。
（わたしが噛み砕いてやる！）
「あ、あああ――っっ!!?」
　――ビキィィィッッッ!!!　臼歯に重圧が掛かったと思ったのも刹那、口腔に破砕された誇りの味が広がった。研鑽による熟成を重ねられた葡萄酒の風味。それがサイダーの如く発泡して溶けて舌の根元から唾液で味の薄まることなく咽頭に流し込まれていく。
「ハァ――――――ッッッ、――――ォォッッッ!!!」
（こんな所で娘の前で本性を出すなんて出来ないっ出来ない出来ない出来ませんわぁぁぁっっっ!!!）
　声成らず呻いたシェリスは、喉笛を晒して仰け反り、紫髪を垂らしてしまう。
「ファ……ァ゛!!　――ッッッ!!!」
「――あは、やっちゃったぁ♪　どぉ、シェリス！　わたしに遠慮しなくて済むようにしてあげたよ!!　母親面して我慢なんてできなくしてあげたよ!!　馬鹿なシェリスにわたしに屈服する幸せを教えてあげるよ！　わたしにわたしにわたしにわたしに!!」
　意識から血の気が引いていくようだった。蓋を砕かれた暗がりの底から、押さえつけられていた劣猥な衝動が込み上げてくる。世界の見え方が逆転したかのように、どよりと魔姫の瞳が澱んだ。
「あ……ぁぁぁ……ぁは……は……！」
　マインド・ブレイカーの手に掛かった彼女の朱脣から、甘ったるい鳴き声が溢れ出す。
「ぅ、ぅぅぅ、ランセ、貴方にこんなに近くで見られていて――もう押さえられない……押さえる物が何もない……!!　……もう耐えられませんのぉぉぉっっっ!!!」
　ピンクのソックスを穿かされた脚をマイクロミニのスカートに絡みつかせ、引き寄せる。グローブに包まれた掌が、ベールを千切るように相手を掻き抱き、我が娘の頭を左乳房の下へと押しつけた。
　腹部の烙印の淫熱に急かされる二人は、急速に攻守の天秤を傾かせた。未練がましい拒絶の言葉を吐こうとする桜色の唇を塞ぎ、ランセリィが己の両掌の根元から一本ずつ、流線的な黒曜石光沢の表皮オブシディアン・スキンを持った細い触手を生む。それは獲物に食らいつくウツボの如き獰猛な俊敏さで双子の白い山岳に麓から螺旋に巻き付いて、歪めた柔肉の形を縦に尖った鏡餅に変えてしまう。そうして白夜の半魔が、自分の小さな掌でも掴めそうなほど捻じ締められた乳房の根元を、一気に絞首刑に処してきた。
「ふはぁぁぁああああ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
　栓を飛ばされた二瓶のシャンパンが、白いシャワーで陥落を祝福する。己の急所をギリギリと握ってくる体温の暖かい掌がとても愛しく感じられ、意識が眩んでしまう。
「ふんっだ、これくらいで噴き出すなんて、安い女だね！　わたしがもっと色々教えてあげる、仕込んであげる……だから肉欲に溺れなよ、シェリス……ッ!!」
「ひゃわってぇぇぇぇぇぇっっっ!!　もっと他の所もォォォッッ、き、気持ちいいの、止みゃらないぃぃぃぃぃぃっっ!!」
　自分で腰を動かす度に膣内でトゲが擦れる。膣壁で肉棘の爆竹が無数に鳴り響く。それを見て取って、ランセリィが邪悪で魅惑的な小悪魔の笑みを浮かべた。
「グスフェラトゥ！　わたしに見とれてないで、やること続けなよ！」
「あア～～ん？　小便臭ぇテめぇの所為で、曲がっタ鼻ぁ戻すノに忙しかったンじゃねぇカ！　第一ヨォ、口ぃ叩ケた身分なのかヨ、シェリスエルネスの娘ェッ!!」
　悪態を吐きながら柩の怪物が、二本の逞しい腕を伸ばして、シェリスの足首を掴んだ。わらわらと群がった他の腕たちが肩や胴体をしっかりと押さえつける。熱い魔姫の肢体が不吉な予感に戦くのも構わず、「ほらよっ!!」と猥褻に笑った彼が、掴んだ足首を一度後ろに引いたかと思うと、そのまま海老反りになるように、思い切り頭上に引っ張り上げた。踵が肩から前に飛び出る程に。股関節を外れそうなほど酷使されて「あごおおぉぉぉっっ!!」と喚くシェリスに構わず、今度は腕を背後に引っ張り、背筋でピンと張らされた脚線を輪で閉じ込めるような後ろ手にしてしまう。交差させられた手首が苦悶に痙攣する。
　究極の被虐姿勢コープス・ロック。見る者にシェリスの体積が半分に減らされてしまったかのような錯覚を起こさせる程、四肢を折り畳まれてしまった。揺さぶりながらグスフェラトゥ。
「本当なラよぉ、こォの姿勢デ柩ぃ中、引き摺リ込んで、三日三晩突き続けてヤるんだゼェ!!　ゲェハハハッッ!!　どうダぁぁ、楽にナりてぇカ?!」
「見せて、シェリスの無様にイく所!!」
「はいぃぃぃ……」シェリスエルネスはがくりと項垂れた。
　針金で出来たクリップの如く楕円形に撓められたシェリスの肢体が、秘部の盛り上がりを地に触れさせそうにしながら、半分ほど柩の中に引き込まれていく。無数の腕に揉みしだかれるシェリスの前で、魔姫の膝から振り落とされたランセリィが、ペタンと脹ら脛も太腿も地に付けた蠱惑的な女の子座りになり陰阜を紅布に擦り付けながら、卑猥に咲かされた乳房の根元を固く握って離そうとしない。
「えへぇ、特等席♪　イき顔が見づらくなるから、シェリスを揺さぶらないでね？　それ以外なら、幾ら痛めつけても膣出ししてもいいや！」
「イい所あるじゃネぇかクソガキィィィッッ!!　チィィ、締め付ケてきやガる――堪ンねぇ、もう出すゼェェェッッッ!!!」
（あああ、こんな姿勢――っ!!）早くも順応した被虐的な肉体は、早くも生まれた時からこの姿勢をだったかのように固まってしまった。前後からの暴力的な欲求に抗えない。
「イっちゃぇ、シェリスエルネス!!」
　――ビュンッッ!!　勢いよくしなった銛状の悪魔尻尾ハープーン・テイルが肉芽を突き刺した。
「ひゅぎゅぅぅぅぅぅうあああああああっっっ!!!」
　長く尾を引く断末魔を放ってシェリスは達した。鈴口にぴったりと吸い付いた子宮口が、ごくごくとスペルマを内部へと引き入れていく。
　噴かれた潮がランセリィの腹部に直撃し、クロスした革帯にドロリと滴った。お臍に垂れたのを、乳房から手を離してランセが掬い、臍の緒の名残に塗りつける。
「……熱ぅい。お臍にかけてくるなんて、またわたしと繋がりたいの？　それとも子種がないから、せめて体温だけでも、わたしの膣に伝えたいのかな？　いいよ、許してあげる。あいつにマーキングされた、この縄の痕をシェリスの白いので消して……!!」
「大した変態だこと。ですってよシェリス、少し虐めてあげたら？」
「はぁぁぁ……はひぃぃぃぃぃ……」
　精神の瓦解した魔姫の虚脱しきった喘ぎ声が耳に届く。散々揉み込まれ快楽に屈した魔性のウェディングドレスは、驢馬にも劣る情けない姿だった。
（ちがうね……イジメルのはわたし……。……ド変態のシェリスを嬲ってあげる……！　悪いのはそっちだよ。素直にならないんだから！）
　恋に憔悴した笑みを浮かべた魔少女は背伸びをし相手を見下ろす位置になると、紫髪の後頭部を左手で鷲掴んで、堪らない愉悦を以て魔姫の貌を己のフラットな胸に押しつけた。
「……わたしに何時まで挿れてるんだっ、ヴュゾフィアンカァァッッ!!」
「あん？」「ゲケケッ！」一瞬迸った白光の圧力に押されて、薄笑いを浮かべたゾフィアと柩の怪物が後退していく。
（見たか……どうだ、どうだっ、わたしがシェリスの所有者なんだ……！）
　感極まった右手の薬指が、つ、と上がり、母胎の眼前で勢いよく己の左胸を突き刺した。
　――ブヂュ……ッッ！
「く……あは……ぁぁぁっ!!」
　珈琲とチョコを限界まで煮詰めて焦がしたような、狂おしい芳香が俄に周囲に立ち籠めた。心臓に打ち込まれた官能の刺激が、全身に波及し爪先まで痺れさせる。初めて味わう己の能力の味。シェリスエルネスに跨りながら、陶然として孔に環指の抜き差しをする。
「何もかもさらけ出してよっ！　ほら、わたしの方が強いじゃないかっ!!　一緒にショッピングに行こう、首輪とリードでお散歩だよ！　綺麗な餌のお皿と水のお椀を買ってあげる……こんな奴らにくれてやるぐらいなら、いっそこの手で壊してやる!!」
　胸から垂れる心の腐敗の蜜を魔姫の鼻梁に塗りつける。想い人を自分の物にした興奮に身を任せた魔少女は、抱いた獲物を周囲に誇示するように頭を巡らし、威嚇に八重歯を剥いた。陵辱していて油断したのか、忌々しい烙印の疼きを除けば、自分たちは束縛されていない。もうこの場に用はない。一時撤退する算段をしつつ、周りの様子が引っかかった。花嫁が強奪されそうだと言うのに、どいつもこいつも含みのある笑みを浮かべていて、誰も悔しそうにしていない。羨望も妬みも、僅かな焦りさえ見せていないのだ。
（なに、こいつら。あれだけ騒いでおいて、大してシェリスが欲しくなかったって訳？　……絶対に後で皆殺しだ！）
　身勝手な雄共の振る舞いにますます怒りを募らせ、一対の蝙蝠羽フォーマル・デモンズウィングを広げようと、
　ようと――、
「ん――っ?!」
　口を開ける陥穽。突如背中を歓喜の杵臼で叩かれたランセリィは、生々しい傷口を直に触れられたような新鮮で痛切な痺れに背筋全体を痙攣させた。羽ばたきかけた翼の根元を魔姫の掌が掴んで扱いてきている。無我夢中で鼻に掛かった声を出し、荒い息を吐いて未だに続く絶頂の余韻に身を震わせる母胎。顔を上げて覗き込んでくる澄んだ蒼い瞳は涙の膜を作り、紅潮した目尻から熟れた頬へと一筋の川を流していた。
「恨み、ますわ、ランセリィ……、こんな部分を考え無しに暴き立てるだなんて……!!」
　嗚咽に噎ぶ咽頭の奥から野獣のような呻きが漏れだしていた。
「ふん、だ。がっつかないで、みっともない！　後でたっぷり虐めてあげるから、おとなしくしててよっ?!」
「赤頭巾が狼を御せるものかしらねーぇ？　それは無理だと思うわ、プリンセス。私の親友をその程度で陥落させようだなんて、シュガーシンキングもいい所」
　楽しげな声音に釣られるように、間近で合わせた瞳の中で黒い炎が揺らめいた気がした。
（え……？）
「肉欲になんて、もうとっくに……私が必死に、がっ、我慢していたのは……！」
　耳元で脳にこびりつくような甘い声音が、痙攣しながら聞こえてくる。
「あ……ぁ、貴方を……犯す、こと……でしてよ……っ?!」
　驚愕して顔を離すと視界が広がり、紫砂の髪が燃え立つのが見えた。頽廃の薬指で抵抗の芯であった心の中核を破壊されたシェリスの表情が、自制心を喪い恍惚に沈んでいく。ほんのり紅潮した白い肌はより淫靡さを増し、蒼い瞳には今や、見たこともない昏く熱い情欲が満ちて、熟れきった娼婦の如き劣情で心揺さぶられる上目使いをしてきていた。
「う……ふ、うふふ、可愛い私の娘……ぇ！」
「な……何トチ狂ったこと言って……！　くきゃ……ひやぁぁぁぁっっ?!」
　魔姫が首筋に歯を立ててくると、歓声と共に舞台下のグラスから放られた酒の液体が肩に当たってきた。飛距離を競うかのように酒杯が振り回され、飲む時に縁に付着した唾液混じりのアルコールの感触がランセリィの肌に鳥肌を立てる。だというのにシェリスは貶められる喜びに身を震わせながら、仰け反る少女の背中をたおやかな二本の腕で強く抱き締めてくるのだ。
「あーぁ、シェリスエルネスを本気にさせちゃったわねーぇ。ネチっこいわよ、そいつ」
「ぁう……！　何がっ、本気！　離せ、シェリスエルネス、こんな所、とっとと!!」
「その嫌がる顔が……ああもう！　貴方のそんな姿を見ていたら私、歯止めが効かなくなってしまうじゃないの……っ!!　泣き顔を魅せて頂戴な――ッ」
　同時に股間に激烈な快感が生じる。少女は堪らず嬌声をあげた。彼女の位置からは見えなかったが、魔姫の周囲から湧き出した闇が、二人の露出したクリトリスに巻き付いて見る間に固形化し、丈夫な絹糸のようになって繋いできたのだ。最初人差し指程度の長さはあったそれは、次第に第一関節程度にまで縮んで、大小の腰を密着させてくる。
「あらあら、まだ解れていないのかしら、固い腰ですわ。こんな麗しの果実を今まで産み方に負い目を感じて見過ごしていただなんて、はは……あはは……っ！　本当に錆びついたものですわ。――さぁ、ランセ……今度は私の力で!!」
「ふひぇやあっっ?!」
　黒糸にまるで憎むかのようにぎりぎりとクリトリスの根元を締め上げられる。敵前で娘を嬲らされる悔しさと、果実を前にしてお預けを強いられる苦悩からの解放感に、魔姫の頤が最期の葛藤に震えたのも刹那のこと。堕ちた美姫が張った腰をグラインドさせた。
「この温かい肌も、小さな身体も、全て私が嘗め尽くして差し上げる!!　猛れ我が闇、淫靡なる報復と制裁の時は今っ!!!　ブラァァァック・アアアトォォォッッ!!」
　抑圧されていた情欲の赴くままにシェリスエルネスから噴き出した闇が二人を覆う。荒れ狂うエネルギー体が凝縮物質化マテリアライズし、凶悪な陵辱の意志を形作って顕現させていく。
「うむぅぅっっ！」宙を舞った漆黒の革ベルトが二人の角を固定した。まるで近代戦車の無限軌道の如く、母娘の大小の角の根元をそれぞれ軌動輪と遊動輪にして巻き付いて、熱ぼったく向き合う顔の正面から鼻梁を衝突させてくる。更に首同士が隷従的な首輪と短い鎖で繋げられ、黒と紫の頭部の位置までもが、鋳型に嵌めたように固定されてしまった。
「ふ……ぐ……っ」互いの唇が重なるように。逆三角形を描く三点固定により、額を触れ合わせたまま、微塵も両者の顔が動かせなくなる。危うく婀娜っぽい楕円のオーバル・カットサファイアと、眼を白黒させる尖った楕円マーキーズ・カットの藍理石ソーダライトが見つめ合ったまま、くぐもった吐息の度に擦れる朱脣を強引に貪り合わさせられる。
「ふ、ふぅ、っん……！　……は……はにゃ……ぅきゅぁっ！」息苦しく、頭が朦朧とした。離れようと藻掻く淫猥な蛞蝓の匍い跡に塗れた細腿と、追い縋って力でねじ伏せようとする愛液にてらついた熟腿の目紛しい攻防の挾間にも、滝壺の渦に墨汁が流れ込むが如く魔姫の意志が滑り込み硬質化。仰々しい鋲の打たれたメビウス輪状の拘束帯が二組現れ、諍う両者の上で牙を閉じると、左右の太腿同士を仲良く獄屋の朋にしてしまう。
　首、角、肉芽、両の太腿。きつく繋がれた二輪の肉体は向かい合って百合の交わりに耽る姿勢を強いられた。体格差を無視して官能地帯を接合されたランセリィは已むを得ず背筋を張り、それを背を丸めたシェリスエルネスが猫のように瞳を細めて抱く格好だ。
「ぇぁっ、シェ、シェリスはわたしの玩具になってればいいんだっ、余計な反抗……！」
「ふぅん？」と、それだけ見ればいつも通りのお茶目混じりの瞳が微笑んだ。「玩具にして頂戴？」耳に熱した蜜を流し込まれるような、ぞっとするほど甘い声音。
　贈衣のはだけた背中から入ってきたシェリスの腕が、うっすらと躯線の浮き出た少女の背中に指を食い込ませた。同時にもう片方の手で、尻尾の根元を擽るようにしてキュッと摘む。危険な快楽に撃たれて唯一自由なランセの両腕が、藻掻いて魔姫のはち切れんばかりの胸を叩いては跳ね返される。
「ふぁぁぁっ、……や……！」愛撫のリズムが波紋となって背中に広がり、ぎゅっと縮こまっていた幼い蝙蝠翼が根負けをして、緩みながら垂れ下がっていく。濡れた枯れ葉を伸ばすようにぎこちなく。そこに母親の成熟した四枚羽が覆い被さり掬い上げ、サンドイッチにして逃げ道を塞いでから、己の尖った部位で娘の敏感な羽膜を掻き毟った。
「ィ――キュヒィィィィ――――ッッ!!」
　――カリッ、ギュグュギギッッ、カリガリコリ、ガリガリガリッッ!!　バチヂッ！　二枚の卸し金による激烈な刺激に真っ直ぐに引き伸ばされた少女の悪魔羽を、轟音を立てる小さな黒い竜巻が包み込む。嵐の目の中でSMチックな無数の革紐が乱舞し、柔軟な骨と精緻な皮膜の鋭利な波模様による芸術品を乱暴に縦に折り曲げたかと思うと、そのまま三枚ずつ両の羽を絞った雑巾のようにくるんでしまった。引き攣った痛みと、母と直に触れ合う快悶感。形容しがたい歓喜の稲妻が蹂躙された翼を焦がし、ランセに脂汗を流させる。
　完成したのは、レズ強制ギブスとも言えそうな拘束帯だった。
　――一緒に気持ちの良いことをしましょう？
　そんな淫蕩な笑みを浮かべたシェリスエルネスがうっとりとした瞳で互いの肉芽を挨拶させ、喧騒の中央舞台で燃え盛る肢体を密着させてくる。ふしだらな猫の肉球のぬめった弾力が迫り出され潰れ合う度に、癒着せしめられた双花の肉肢を痺れる電流が走り、接触点には火の粉が爆ぜる。時には許される範囲で太腿をずらし、むっちりした魔姫の柔肌でクリトリスを撫で上げられた。それは腰骨が粉々に砕かれて悦楽のスープにじっくり煮込まれ溶け消えてしまいそうな、全てを委ねておもらしをしてしまいそうな快感だった。
「は……ぅっ、うう……！　調子に、乗るなシェリスエルネスゥゥゥッッ!!」
　鳩血石をピジョンブラッド思わせる布の輝きに照り返されて、檀上で交わり合う少女たちの躍動が朱色に映える。涙声で暴れるランセリィには信じられなかった。今まで無力に喘ぐしかしていなかった魔姫が、圧倒的な陵辱者となって覆い被さってきていることが。
　ただ一点拘束を免れて自由な腕も、ふざけたウェディング・ドレスのラッピングリボンで縛られていて、シェリスエルネスだけが自由に二本使えるという一方的な条件だ。
「ねー、シェリス。私も仲間に入れて頂戴？　二人でこの娘を犯しましょうよぉ？」
　捨て鉢な目つきをしたシェリスが睨む。澄んだ殺意を向けられたゾフィアが、戯けた仕草でランセリィの背中に隠れてしまった。
「わぁ、怖ぁい。あいつったら、お前を独り占めにする気よー？」
（シェリス……わたしを見て欲情してる……の？）
　先程の物言いを思い出すと、急に胸の鼓動が激しくなってくる。自分が今、奈落の縁に立っていることを予感させる不穏な気配。「――ッ」と身を退こうとしても、
「もう怖じ気づきましたの、ランセリィ！　私の全てを刻みつけるには、この程度では全然っ、足らなくてよ!!」と、極端に短い鎖で結ばれた相方が許してくれない。
「ま、まだあるの……?!　ん……や……っ！」
　――ズゴン……ッ！　淫靡に絡み合う魔の姿を永遠に留めようとでも言うのか、彼女達の境界線を挟んだ周囲にまるで絵画の額縁の如き漆黒の枠組みが生まれた。それは長方形で、膝を突く二人の交差した臑の下にも線を伸ばしている。そう、ランセリィを苦しめている拘束部位は、悪夢の装置の全容に対してランジェリー程度の存在に過ぎなかったのだ。
「んん――！」
　恐怖に捩られる背中にちょこんと身を潜めたゾフィアが、半尖りの耳の後ろで忍び笑う。
「止めは自分たちで刺し合わせてあげる。なんて優しい私なのかしらっ！」
　一纏めに縛り上げられロールキャベツにされた蝙蝠翼の頭上と下方、上枠と下枠の両端から四分の一の長さの箇所から内側に、それぞれ一本ずつ計四本の焼き鏝に似た不気味な形状のシャフトが伸びてくる。それは先端に、ちょっとした岩なら砕けそうな幅の、日本刀を打つような平たい台状の頑丈な板面を備え、戦慄く黒翼の細長い塊の中央をプレス機の如く挟み込んだ。ちょうど正面から見ればローマ数字のⅡの間に、睦み合う二人の肉体がすっぽり収まり、Ⅰの部分の真ん中に蝙蝠翼が挟まれている状態だ。
「もう少しの我慢ですわ……もう直ぐ完成……っ！　もっと羽をお広げなさい?!」
　両横枠の内側には更に、複雑な内部の機構の見える縦に長い穴が空いていた。怨嗟を絞り出すかのような暗い溝。そこを上下に移動できる棒が、中から真っ直ぐに突き出ている。途中で奇妙な関節を持ったアームになっていて、先端では恐竜の口か洗濯鋏のようなギザギザを持つ巨大なペンチが威容を誇っていた。
　独りでに左右から迫る陵辱のアギトが、身動き出来ずに苦痛に震えるグルグル巻き悪魔羽の先端にがぶりと食らいつく。そして各々の片側計三つの先端を山なりの牙で固く噛み締め、容赦なく下向きに力をかけてきた。
　ちょうど梃子の原理で大岩を動かそうとしている木の棒であるかのように、一纏めに縛り上げられた蝙蝠翼が、ペンチと少女たちの間で途中から曲げられている。そして大岩を動かすことが出来ず、今まさに張り裂けようとしていた。
（芯が折られる……！）
　魔界の拷問方法だ。本来ならこれは先端からほんの僅かに降った所から始まり、犠牲者は拷問吏が気に入る返答をするまで少しずつ骨を折られていく。よしんば耐え抜いた所で、彼、彼女の誇り高く美しい翼は水に浸した和紙の如く鮮血に塗れて萎れることになるのだ。
「『ハウルケンドラスの振り子』ね。流石はシェリスエルネス、いい趣味だわ」
　ヴュゾフィアンカが痛そうに己の翼を庇いながら賞賛すると同時に、
　――こりゃいい玩具だ。うちの娘に買ってやりゃぁ、泣いて喜ぶぜ。
　――へ、イかれてやがるな、魔界の女はよぉ……。
　拷問装置の異彩に魅せられたかのように、檀上に雄共が登って群がりくる。その中の葉巻を咥えた野戦服の男が、頬を斜めに走る深い傷痕を摩りながら隣にしゃがんだ。――よう、お嬢ちゃん。俺はあの街であんたの召喚した精霊に殺されたんだが……覚えてねぇか。
　頭でコルク栓を抜いた酒瓶を逆さにされ、葉巻の煙をフーッと吐きかけられた。
　――まぁ見たとこ似たよーな境遇だ。もう恨んじゃいねぇ。それよりこれから俺たちは、お前さん達を競り合う訳だが、どうだい。その前にお願いが必要なんじゃないかい？
　後ろからのそりと巨体を進めた豚頭の魔神が後を続ける。
　――おいらたちゃぁ、そっちの姫さんと一晩過ごせりゃ、この世に未練もなくなるって気分なんだけんどな。生憎と、おまけに出すほど銭の持ち合わもねぇや。
　――ふふん、下手をすれば、ここで引き離されたが最後、それが今生の別れということもありそうな状況だねぇ？　だったらダンディなおじさん達に『どうかシェリスエルネスと一緒に競り落として下さいまし』、と頼み込むべきだろうねぇぇ？
　口々に身勝手な事をほざかれて、瞬時に殺意が沸点を超えた。
「Hell No! Go To! Flat tire!!お断りだね！　死んじゃえ！　インポ野郎!!　ゾフィアのケツの穴でも舐めてろっ!!」
　勇ましい若牝の猛りに、男たちの笑いが混じった邪悪な目配せが交わされる。
　――HEY! Mother Fucker!　お灸を据えられちまうぜ、素直なレディにならねぇと！
　逞しい誰かの手が二本、哀れな翼の命運を決める両脇のアームの根元を握り、スロットのレバーよろしく一気に最下段まで引き下げた。無情にも機能を果たす黒肢の先で、ジャイアント・ペンチが強情な魔少女に惨劇を齎すべく下向きに剣呑な力をかけてくる。
（は……羽なんかっ、折られたって直ぐに……再生……出来ないのかな……わたしの生命力じゃ……？　いいんだ……泣きさえしなければ……っ！）
　母羽にくるまれた己の翼がしなっていくのを感じ、流石のランセリィも恐怖を感じた。
　だがこの場合――？
（上に逃げられる……？）
　がっちりと固定されていなければならない筈の蝙蝠翼の母娘巻きが、何故か動かすことが出来た。よくよく見れば獲物を挟み潰しているシャフトの平面は、横向きの蒲鉾状に縁が丸い。隙間を利用して曲げられるのと同じ下方向に翼を羽ばたかせて先端を下げ、反動で膝を伸ばし躯を持ち上げれば、容易に位置をずらして骨折から逃れることが出来た。
（な、何のために……？）これでは欠陥品だ。拷問道具の役目を果たせない遊具である。端から相手を逃がすのを前提に設計されているとしか思えなかった。
　――ガチリ。
　アームが下がりきり、そんな撃鉄が上がるのに似た不気味な音が響く。息を吐く暇もなく男たちに反転させられたジャイアント・ペンチが、今度は羽を上方向に曲げてくる。折られない為に同様に羽ばたけば、半固定されている所為で、反対方向に動く躯は下に。
（この装置……折るのが目的じゃないの……っ?!）理由の分からない焦燥が広がっていく。誰も失敗だという顔をしていない。なのに自分だけが、狙いを掴めていないのだ。
「下でしてよ、ランセリィ。私と貴方のお遊戯の、これが本命ですの……」
　クスクスと妖精のような笑声を上げ、首魁のシェリスが足元を目で指し示して助け船を出した。そしてランセリィは理解する。
　茜の家にあった、部屋を区切る敷居。それに似た状態の拷問装置の下枠に、二人は臑を乗せているのだが、股間の直下だけ、垂直に別の短い板が飛び出て十字になっている。そして、いつの間にか十字の短い方の先端から生えた、歯車をクッキーのように重ねた形状のディルドゥが二本、愛液滴る二人の秘所を並んで狙っていたのだった。
（……まさか、この装置……！）
　ランセリィが己が運命を悟って強張った陰唇から愛液を垂らした刹那――、
「私たちにもう前戯は必要ありませんわね!?」
　――グイ……ッ、……ジュグンッッ!!
　弾みをつけるように腰を上げさせられたかと思うと、シェリスエルネスが勢いよく腰を下に押し込み、歯車ディルドゥが狙い違わず二人の花弁を貫いた。
「ひゅぐっ！　――――ッ！　はおぉぉぉぉぉぉっっ?!」
　ぬるり、と円錐状の亀頭部が潤滑油に充ち満ちた陰唇に割り入ってくる。続いて、歯車の歯が縦に並んで形作られた棹が、その不揃いなコグの一枚一枚で朱い粘膜を爪弾き、ヴァギナに卑猥な洗礼を与えてきた。無数の鮫の背鰭が船体の底を擦るような妖しく危険な快楽が、擦過される襞と女芯をグズグズに灼き焦がす。
「く、くぁ……ぁ！　ひ……ィ……ぃ、き、ぃぃぃイ、ひぅぁっ！」
「ぁはァぁっ、貴方ったら酷いですわ？　ミーティにまで尻尾を振っておいて、私にはちっとも教えを請わないんですもの！」
　膣内に押し込まれた異物の経験したことのない異様な凹凸の感触に身じろぎするランセリィ。しっかりと形を覚え込まされてから、装置を駆動させて躯を持ち上げさせられる。
「う……ふぁぁ……っく。シェ、シェリスゥゥゥゥッッ!!」
　腹部の圧迫感から解放されて息を吐き出す少女が睨み付けると、官能の奈落を見据えた蒼い妖眼の持ち主が、被虐の恍惚に震えながらペロリと舌なめずりをした。同じ責めを受けた彼女は我が娘の悶える姿に倍する興奮をしたようで、山羊頭の花嫁衣装の生き生きとした精彩を得始めた背輪布を膨らませている。舞に合わせるように腰をくねらせる。
「ここはくらいくらぁい場所ですの。貴方にも見せてあげたいわ。だけど五秒入れただけで脂汗を流すお子様には無理かしら？　う～ふふ、純白の国への扉を開く魔法の鍵を、言葉にしてお吐きなさい。猶予は、いーちい、にーい、さー……ん！」
　夢見るような口調で子供を肩まで湯船に浸からせるみたいなふざけた声を出しながらシェリスがキスをしてくる。百まで数えられたタイミングで男たちがアームを上げ、再び少女たちの腰をディルドゥに向かって急降下させた。
「ひっぁぁあっ!!」
　快感の痛打を貰ったランセリィの肢体が、跳ね上がる。
　――ジュグリ……ズゴ、ン……ギリギリィ……クチュ、ルジュルゥズ……ッ。
　女洞粘膜に当たる角は滑らかに丸い。ニガウリの疣の如く縦横に生え揃い、如何なる絡繰りか歯車の一つ一つが、向きも速度もてんでバラバラに回転していた。ランダム・ピッチに淡く色づく肉襞が巻き込まれる。薄い粘膜を小さな指で優しく磨り潰されて、脳裏をぴりっと刺激する快感が迸る。
　それが膣中の無数の箇所で繰り広げられるのだ。頭の中身では官能の彫刻士が熟練のノミを振るい、取り返しのつかない恍惚の刻印を刻みつけていく。ワシャリと曲がった少女の指が山羊頭の花嫁の紅衣を藁にすがるように掴み、精緻かつランダムなうねりに掻き回されたヴァギナが早くも悲鳴を上げて、蠢くことも忘れて棒立ちになった。粘着質に襞をこね回す歯車の群れに愛液が浸透し、ますます悪魔的な滑らかさを増していく。
「こ、こぉぉぉぉぉっっ！　ぐぅぅぅぅっっ！　は、はぁぁぁ、はぁぁぁぁぁぁっっ!!」
　再び腰を上げさせられると、うっとりと娘の顔を眺めてくるシェリスが再度カウントを始める。今度は九十九のタイミングで腰を下げさせられた。
「早く素直にならないと……分かりますわね？」
　クククと賞金稼ぎや魔物どもの好色な忍び笑いが、暴走を始めた魔性の女帝に追随する。
「言うかぁぁっ、シェリスの馬鹿ぁぁぁっっ！」
「あら嬉しい。機能を最後まで使わせてくれるだなんて。……貴方たち、もう手を離して良くってよ」
　残虐な微笑みに応えるかのように、拷問装置の不気味な内部機構が鳴動を始めている。
　アームの根元を吸い込んでいる横枠内側のスリットの奥には、時計の脱進機と同様の働きを持つ構造が埋め込まれていて、ペンチを支える根元が下端に達するとゆっくりと、でんでん太鼓のように反転して上に力をかけ直してくる。
　そして機構に連動したディルドゥの歯車が、それぞれ独自の向きや勢いで回るのだ。事ここに至って目的がはっきりした。
　これは飛行器官を捕らえた獲物を骨折の恐怖で脅し、翼の中央を支点にした羽ばたきによる膝の上下運動を強制させ、それを動力に奇怪なディルドゥを回し、更に犠牲者自身の腰使いによって秘部を貫かせる悪魔の器具なのだ。最初のペンチを下に動かせば、後は翼を折られることを恐れた麗しい彼女たちが延々と勝手に腰を振ってくれるという寸法だ。
　しかも一度勢いを進めると速度を落とせない。命令に従った雄の手が離れると、巨大な機構が稼働を始め、生きた標本の如く貼り付けられた二人をただのパーツに貶めてくる。
「シェリス……ッ、こんなの間違えたら自分の羽だって――ッ！」
　――ギュル、ギュリリリ……！
　粘膜のシュミネに丸い歯車の歯が食い込み小刻みに褶曲させる。無数の滑らかな瘤に膣肉を襲われ乱雑に撫で上げられ、気怠げな細い太腿が官能に痺れた。
「くきゅ……くひ……っっ!!　やめ……っ、やめぇぇぇっっ!!」
「リスクは望むところですわ。私と一緒に堕ちられますのよ、娘として光栄でしょう？　いえ、こんな言い方は嘘ですわ……一緒に堕ちて同じ喜びを教えてあげたいんですの！」
　破滅に酔ったシェリスの腕がランセリィの腰をグイと引き寄せてきて、二人は左に反った有明月が大小に並んだような姿勢になってしまう。捲れたスカートが絡み合い、露出した互いの秘部が黒い絹糸の線に導かれるままにぶつかり合った。翼に迫る危険に急かされた二人は機を織るように次第にリズムを早めて腰を上下させる。仲良く並んだ母娘の膣口で、唸りを上げる奇怪なディルドゥが抽送を繰り返すと、真闇の枠に水気がかかった。
「う……ぅむあ……っっ、ふぎゅぅぅぅぅっっっ！」
　回しすぎたペダルが靴を必要としなくなるのと同じく、ハウルケンドラスの振り子、改め、歌姫の鳥檻がトロヴァオン・アコルデアオン二人のコントロールを離れるのに、そうは時間はかからなかった。
「あら、私に見て欲しかったのではなくて？　貴方の泣き顔はさぞかし甘露なことでしょう！　嗚呼、恍惚に耐えかねて救いを求める声が聞きたいですわ!!　あははははっ、ここはギャラリーに事欠きませんもの、二人で皆に見せ合いをしましょうねっっ」
　――ジュプッッ、ジュププッッ！
　激しい魔姫の腰使いによって、嵐に巻き込まれた小舟の如く翻弄される。不可逆的に回転の逞しさを増していく歯車ディルドゥの一刺し毎に膣壁が刮げ取られた。
　抽送の縦運動まで加わって、手がつけられない。歯の隙間に引っ張られて膣全体が引き延ばされる。貫かれる時はラビアが内側に引き込まれ、抜ける時には粘膜が甘く引っ張られて、ヌラリと紅い内壁が外に捲れ上がる。まるで二匹のイソギンチャクが逆さになって肉棒をしゃぶっているような淫靡な光景を、最前列の雄共が口汚く褒めそやした。
「ヒ、ヒィィィ――ッッ!!　あそこがひっぱられるぅぅぅっっっ!?」
知り立ての躯には酷な仕打ちだ。激しい嬌声を迸らせた魔少女の首が仰け反ろうとしては拘束帯に引き戻され、お仕置きとばかりに魔姫に唇を啄まれる。
「さぁ、辛いなら皆さんにきちんとご挨拶をなさい？」
「や、やだっっ!!　死んじゃえ、シェリスの馬鹿、死んじゃえぇぇっっ!!」
　振り回される罵倒を涼しい顔で受け流した常夜の魔姫が、娘の背中を押さえた指から、すらり、と数センチ、玲瓏に燦めく爪を伸ばした。そして裸身同然にカットされたドレス背の艶めかしい白磁の斜面に、スキーストックよろしく振りかぶって、トスッ、トスンと鋭く楽しげな調子で刺し入れる。途端――、ランセリィは背中で太い電流の束が弾け飛ぶような感覚に襲われ、周囲の温度が一気に数度も上がった気がして脂汗を流した。
「え……？　ひぇっ?!　くあ……ああああ……っっ、くああああぁぁぁぁぁっっっ!?」
「感度を数倍にしてあげましたわ。いつまで強情を見せてくれるのかしら？」
　シェリスの爪がトスッと刺さる度に、ランセリィの絶叫が１オクターブ高くなる。
「は、はォォォォォォォッッ!!　ヒュガアアアァァァァァァァァッッッ!!」
　気にも止めていなかったリボンの衣擦れが快楽の大蛇の締め付けに昇格し、互いの木理細やかな肌の触れ合いが情熱的なキスの応酬へと燃え上がった。世界が変容していく悪寒が走る。それだけでも脳が沸騰させられる快楽地獄だというのに――、
「あ……あ゛……っっ！　っ、ァガ……ッッ!!」
　絶頂が近づく度に訪れる奇妙な感覚の意味に気づいて、ランセリィは恐怖の悲鳴を漏らした。ホワイトアウトの寸前、スイッチが何者かによって勝手に切られてしまうのだ。
「ェェェッッ、シェ、リス……ッッ、まさかぁぁぁぁ……っっ!!」「愛する娘の晴れ舞台ですもの。ちゃんと鑑賞していましたわ。焦らされるのが好きなのでしょう？」
　身勝手な向きや速度で回転する歯車が、快楽を堪えようにも意識を一点に集中させてくれない。思考の焦点の合わない理性が千々にかき乱され、亀頭部位の子宮口への激突が桃色の靄の中をパイルバンカーとなって貫いていく。それに意識が微塵に砕かれる寸前。
「ふふ、散々ミーティにやられたものだから、覚えてしまいましたわ？」
　ひょい、とシェリスに打突点をずらされて肩透かしを喰らわされてしまうのだ。魔姫の爪が背中の秘孔を突く。またも感度を一段階高められ、無意識に狭隘なヴァギナが歯車ディルドゥを噛み締める。今にも達してしまいそうなのに、ディルドゥが過敏な箇所を擦ろうとすると、微笑んだシェリスが巧みに腰遣いを変調させたせいで、あと一息の所で生殺しを強いられる。
「はひっ、はひぃぃ」
齎されるはずだった法悦の幻滓が頭の中を塗り固め、視界を霞ませる。累積する絶頂衝動が詰め込まれゆく身も心も、はち切れんばかりの重たい肉風船に作り変えられていく。
（気持ちいい、これ気持ちいい――っ！）
「ぐ――っ！　ぐ――っ！」
　触れ合う肌が珠の汗を溶け合わせる。マシュマロに包まれているように感じるシェリスの女体が、ウツボカズラの内壁に思えてきた。積極的な夜珂の娼衣ウェディングドレスに押し負けて、最初はぎこちなかった二人の動きが、たちまち互いの肢体を吸い付かせる。自分を絶頂に導こうと都合良く動こうとしても、ぐいと軌道修正されてしまい、勝ち誇った目つきのシェリスに鼻梁を重ねられ、血の気を失うほど幾度も強く唇を貪られた。
「あぐ、あぐぅあ!!」
　ボロボロと涙滴を零す蒼瞳の宝石が、ブリリアント・カットを真上から覗いたように見えるまでの円形に見開かれる。脱出手段を持たず藻掻く蝶。漸く口に隙間が出来たとき、ランセリィは小声で泣き喚いた。両拳を握り、溺死者が今際にするであろう必死さで魔姫の胸の谷間を叩く。抱き寄せられると豊かな乳房が第二の手枷の如く少女の手首を挟んだ。
（速いよ……せめて、もっとゆっくりぃぃ……っ！）
「駄目ですわ……今の貴方は私の玩具ですのよ！」
　相手の甘さに縋った懇願を全員に聞こえる無慈悲な大声で一蹴し舌なめずるシェリス。
　――ほらよっ、急いで腰を振らねぇと折れちまうぜ、尻軽！flipper
　家鴨が歩くが如く振り立てられるヒップを認めた誰かの指が少女のアナルにねじ込まれた。自分の勢いで深々と咥え込んでしまう。豊殖の尻殺しライアット・ワームに耕され尽くした直腸壁は無骨な皮膚の厚みを容易く快楽に変換してしまった。
「うわああぁぁぁぁっっ！　やめろぉぉぉぉぉ!!」
　背筋にぞわっと這い上がる蟲の蠢動じみた生理的嫌悪感。
「うふふ、それが気持ちよくなるのだと教えてあげますわ……っ」
「オラ、三下どケどけェッ！　俺様ぁ、まだ入れ足リねぇんダ、ケツ使わセろイッッ!!」
　雄共を押しのけて再びのシェリスの背後に陣取った柩の大将が、肉棘亀頭の魔モルゲンステルン根を菊門に突き刺す。快楽に狂った番いの夜鷹のウィップアーウィル嬌声がドームに淫靡な呪詛を振りまく。
　接吻でランセリィの舌を引き摺り出したシェリスエルネスが味蕾同士を絡めて嗤った。
「恥ずかしいでしょう、最低でしょう？　私はこれが好き、虚飾を剥ぎ取られ、剥き出しの一匹の肉にされて、己を踏み躙られるのが堪らない快感ですの。今、貴方はどんな気分でして？　お互いがどんな淫らな堕牝なのか、母娘で語り合いましょう。交換ですわ。私の知っていることは全て教えてあげるから、貴方の知っていることも全部教えて頂戴」
　アメシストの長髪が簾の如く垂れ下がって少女の顔を覆い、魔姫の貌しか見えなくなる。
「はァ……ぅん……っ、分かる、かしら、こいつの五月蠅い男根が――ァ、私の中を埋め尽くしてますの……っ。苦しくて熱くて……。こんなの、貴方は知らなくてね?!」
　背後からグスフェラトゥに肛門を貫かれて息を弾ませながら、睦み言を吐き出す桜色の花弁に唇を抉じ開けられた。同時に、ズズズと重い物が這い進む音がシェリスのアナルや腹部から聞こえ、魔姫を貫通せんとする怪物の暴威を伝えてくる。胴の痙攣が喉に到達すると、母の美貌がサディスティックとマゾヒスティックの入り交じった恍惚に染まった。
　このまま行けば自分の口腔にも侵入される――。咄嗟に顎を閉じようとして、出来なかった。堕ちた魔姫の歯がランセリィの歯を横合いから噛んでいる。二つの虎鋏が交差してがっちり噛み合った様になり、大人と子供の力差も相まって抵抗を封じられている。
（シェリスを犯しているペニスが私の中にも……！）
　そう考えただけで腰が一回り縮んだかのように切なさに支配された。挿入を求めて咽頭が燃え上がる。所在の無かった舌をお強請りで、魔姫の口腔に突き込みそうになった。
「んっふ……っ！　ふぁ、ぁむ゛ぅっ！　ふぁ、ンセ……!!」
　開いた唇から野獣の如く発情した魔姫の唾液が流れ込み、咽頭の辺りで香味豊かにブレンドされた二人分の泌液が溜まって透明な水底を見せる。やがて、ヌッと魔姫の喉を押し開いて姿を見せる、ディフォルメされたウニの如き肉棘亀頭と筋肉の縒り集まった茶褐色の野太い胴体。苦い胃液の味を感じたのも僅かのこと、それは芳醇な泉に洗われてグロテスクな輝きを取り戻しながら、破らんばかりの勢いで食道を一思いに突き降った。
「――ふぐ――――っっ!!　ぐ……ぁう゛……！　ぐげぇ、リズ……ゥッッ!!」
（降りてきた……っ、わたし、シェリスと繋がった――!!）
　胃壁が肉のスパイクにガツンガツンと叩かれて、臓器がひっくり返りそうな嘔吐感。塞がれた呼吸に耐えかねた喉がこくこくと屈辱の泉を嚥下した。苦痛である。なのに何故だ。それが狂おしい幸福感と灼熱の感覚に変じ全身に広がっていくのは。
　滑らかな輝きが舌の根元を越え少女の首の中に収まっていく。眼前にあるのは媚熱に狂った魔姫の蒼瞳。限界を超えて剛直を呑まされていく。母鳥が雛に餌を与えるかのように。
「ひゅほいでしょう、ランセ……」
（わたしぃぃ、シェリスに胃の中を犯されてるぅぅぅっっ!!!）
ゴツン。理由の説明できない衝動に支配され、小さな猛獣と化したランセリィは、まだラインの幼い顎を魔姫の成熟した鋭利な顎に打ち付けた。催促するように何度も何度も。
「……ぉ……ぇぉぉ…………!!　くぉ……ぉぉぉォォォ……ッッ!!」
（駄目……シェリスと一緒だと思うと感じる凄く感じる駄目っだめっらめぇぇぇっ!!）
　ベルトで繋がれた太腿が母の肌と擦れ合う。そして胃の中で鈴口を開いたそいつが、高濃度に凝縮された悍ましい子種の砲弾を放出すると、カッと瞳を見開いた少女は腰を激しく痙攣させて、黄金色の体液がジョロジョロと体外に放出される流動感に意識を浚われた。
「ぐ、ぐぁぁぅぅぅ……！　ふぁア゛げぇぇぇぇ……っっ!!」
「ふふ、うふふ……あははハははっっ!!　あらあら、おねしょを焦らさせる方法までは体得していませんでしたわ！　ごめんなさいね、ランセリィ？」
　鼻で空気を吸い息も絶え絶えに快楽に溺死させられていく娘に愉快痛快といった風情で、己も貫通されながらも手慣れた発音をする魔姫の笑声が覆い被さっていく。ひとしきり胃壁を嬲ってから逞しい逸物が引き抜かれると、ランセの口から恨みの言葉が溢れ出した。
「ぇほっ！　ぐぇげ……っ、離して……っ、離してよっ、このマゾォォォ！」
「――ぁぐ、むぅぅ……お尻に戻っていきますわぁっ。そういう貴方は、どうしてそんなに感じていらっしゃるのっ？　マゾでもないのに、お腹の中にペニスを突き込まれて！」
「それは、そりぇわぁぁ……ひゃうっ！　くひゅ……ぅぅぅ、馬鹿ぁぁぁっっ!!　ひくあっ、ひくな聞くなきぃひぃぁぁあああっっ!!」
　腰を振ってクリトリスを潰し合う度に、感電したランセリィの呂律が回らなくなる。
「うふふ、いい――、ァん、鳴き声ですわ……相手に平伏すのはどちらなのかしら!?」
「ハァイ、一本格安一ドル！　お前たちに焦らしスキルなんてないでしょうから、これはサービスね？」ずらりと扇の如く青紫の羽根ペンを指に広げたゾフィアが、その中の一本を使って銛状の悪魔尻尾の根元のツボを突く。同時にヒューッと口笛が吹かれて無数の硬貨が投げ付けられ、少し青筋を立てた鴉翼の淑女の手から拷問道具が奪われていった。
「ヒ、ヒ……ァッ！」
　括約筋に小振りで縦に長いブラシがズボズボと突き立てられ、この機を逃さずと雄たちの指が代わる代わるにじっくりと菊門の内部を這い回っていく。指で解された毛が直腸壁に絡みつき、卑猥に蠕動して襞を奥の奥まで甘い恍惚で浸し、無間地獄を再現してきた。
「ィ――――ッ、キィ――――――ッッ!!」
　アナルを輪姦レイプされ、魔性の振り子のパーツとして膣を歯車ディルドゥに捧げさせられて、焦らされ続ける快楽を一方的に摂取させられる少女の許容範囲は限界だ。
「子供が好き勝手に遊び回れるお昼はもうお終い。私たちに怯えて過ごす夕暮れ時の始まりなの！」ゾフィアがお尻の穴のペンの群れを、まるで発条仕掛けの人形の螺子を回すかのようにぐりっと回した。すると少女の口が滑らかになり、恥知らずな告解を始める。
「欲情してるからっ、シェリスと触れ合ってドキドキしてるからぁぁぁっっ!!」
　餌を強請る猫のように、シェリスが肌を擦り合わせてくる。
「……それはぁ、私に好意を寄せているということで良いかしら？」
「な……！」ランセリィの顔が真っ赤になった。見咎めるように腰を抱き寄せ、少女の心を占有している魔姫が、底意地悪く麗貌を輝かせる。
「どうして胸を高鳴らせてしまうのかしら？　答えて頂戴な」
「ど、どうしてって……くぁぁ……っっ！　ひぎゅ、ぁ、おぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
　口ごもった途端、シェリスの牽引が激しさを増し、丸く滑らかな歯車の歯が膣を蝕んだ。
　伸ばされた爪が背中を掻いて、薄い傷を縄痕に嫉妬しながら刻んでくる。乳首を責め始めたゾフィアの掌と挟み撃ちにされて、平板な胴が爆発しそうなほど喘いだ。魔姫と太腿が擦れ合う度に気恥ずかしさが胸を熱し鼓動が早鐘を打つ。繋がれたクリトリスを引っ張られる度に、腰が痺れた。
　――へへ、見ろよ。ガキがすっかりファーコートを脱いでやがる。
　――グフフ、十カラットは下らんナァ。母娘を買い揃えるとなると、ちと事よ！
　醜悪な雄共が耳をそばだてている。己らに憎悪をぶつけてきた少女の凋落を今か今かと待ち焦がれている。心の襞の一枚一枚にまで指を入れられて探り尽くされるような行為だ。何故肌が触れ合った程度でここまで欲情してしまっているのか。答えなど一つしかない。
「可哀想ねーぇ。そんな態度じゃないと素直に私の羽根が欲しいって言えないなんて！」
「あら、こちらにっ、気があるのかとっ、思ったらっっ、そんな理由で私への返事を遅らせていましたの！　何だか、急に興味が失せてきましたわっっ!?」
　肢体を毬のように弾ませて喘ぐシェリスに、歯車の撞木をつかされる。返礼されてくる、千の回転、万の歯瘤の蠢動による歓喜の大音声。魔姫と凶鳥の二人がかりで責められ続け、たちどころに少女の理性の砦は陥落した。
「……す……」すんすんと鼻声で涙を啜り。嬌声の合間から、観念した声が漏れた。もっと強く言えと、詰め込まれすぎて抜けそうになった羽根ペンを戻された。ザリッと濡れた固い羽毛の擦れる感触に怯えた括約筋が石のように固く締まり、電撃が背筋を駆け上る。
「ひ、ぉォ……す……き…………好き……シェリスのこと、好きぃぃぃぃっっっ！」
「そう……っ、だから私の指の動きの一つ一つに反応してしまいますのねっ？」
　背中で想い人の指先の描く軌跡の一筋一筋が、ランセの心の爪を丸めていった。化けの皮が剥がれたとばかりに周囲から喝采と腕が伸びる。
「シェ、シェリスもわたしのこと好きって言えぇぇぇぇっっっ！」
「さぁ？　こんな淫らな娘、私は嫌いでしてよ――？」
　まるで出会った頃とは別人のような意地悪さでシェリスがクスクスと嗤い、腰を振る。
「く……ぅぅぅっっ!!」決定的な敗北を喫した少女。突き放されればされるほど、枯れ草の山に火が灯るかの如く、胸を恋心が支配していく。
（わたしがこんな気持ちになるんじゃないんだ!!　シェリスエルネスより高みに昇って……あいつを惨めさにのたうち回らせてやりたいのに、なんでっ、なんでぇ……っっ!!!）
「だ、だったらとっとと離してっ！　嫌われてる奴とこんなことしたくないっっ！」
「それでも貴方は、私が抱き寄せると擦り寄ってくるのです。ほら、ここをこうされて、こんな……貴方の尻尾、剥けたばかりの童貞チ○ポより敏感ですわ！」
　腰を上げる拍子にシェリスが、螺旋に絡めた互いの尻尾を皮が剥けそうなほど強く扱いた。鏃型の先端を引っ掛け、右手で握って矢印の裏首同士を擦り合わせ、摩擦熱を千倍に高めたような快楽の業火で腰骨を麻痺させてくる。
「くあ、ぁぁぁっっん！　や……やめて……こんな感情いらないぃぃぃ……っっ！」
　肉を激震させて小さな暴君が暴れても、彼女たちを一対の彫像として繋ぎ合わせて破滅のダンスを踊らせる母親特製の闇の拷問装置は微動だにしない。
　身体の両脇のアームは壊れて狂ったかのようにガチャガチャと上下への反転を高速で繰り返し、息つく暇もない暴騒に操られるままに魔属の少女たちは腰を振り続ける。
　歯車ディルドゥが引き抜かれる度に、粘ついた白濁愛液と一緒にヌラヌラと引き剥がされていく互いの陰唇が触れ合うのが心地良くて、母親の腰使いに遅れないように吠え声をあげて膝を上下させてしまう。グラインドを頂点に持っていった魔姫が、ニッと口の端を吊り上げると、馬の鐙を蹴るように弾みをつけて全体重を乗せて二人の腰を落下させた。
　――ズジュガッッ!!
「ァ――――ッッ!!」
　網膜で激しい火花が散り、官能の稲妻で一瞬で全身の骨が粉砕されたかと思った。腰を上げるのを忘れそうになる。だが幼い肢体はすっかり刷り込まれてしまった運動を忠実に繰り返し、恍惚の笑みを浮かべるシェリスエルネスに先導されるまま――、
　――ジュヂュッッガッッッ!!
「――――ッ、ヒァ――ァァァ――――ッッ!!!」
　僅かの上昇の後、断頭台の刃の如く、股間直下の駆動肉棒へとヴァギナを振り下ろす。
（だめだめぇぇぇ、シェリスと一緒だと感じちゃうの！）
　反抗心が崩れ落ちる。尖った吊り目をグジュグジュに泣き腫らさせ、ランセリィは広げられない腕の代わりに体当たりでシェリスに擦り付いた。
「負けっ、わたしの負けだから、負けだから、もう許してぇぇぇっっ!!　苦しいの、これ以上されたら、感じすぎて死んじゃうよぉぉぉぉぉっっっ!!!」
「うふっ、ランセリィったら泣いてしまいましたのね……!?　わ、わらくひも……っっ、は……ハォ……クォオオオ……ッッウッッ!!」
　ゾクゾクと背筋を振るわせたシェリスが、砕かんばかりに抱き締めてくる。面白半分に唇を尖らせたゾフィアが囁いてきた。
「自分が好きなら相手も好意を持っていると思いこむのが子供よねーぇ？　負けちゃったのに図々しいわ。随分なご託を並べて私を散々ぶっておいて虫の良いこと」
「嫌いにならないで……わたしを傍に居させて……っっ!!　ねぇっ、シェリス!!!」
　蚊の鳴くような声で必死に腰の振りを合わせて恭順を誓わされる。
　二人が一つの卑猥な器具と化して絡み合う淫らな悪夢のメリーゴーラウンド。メーターが振り切れる快楽に圧倒され、シェリスに振り落とされないようにしがみついているランセは小判鮫も同然だった。自分より大きな物に包まれている安心感に矜恃が腐敗していく。
（駄目……わたし、堕ちていく……）
　相手に君臨する形でしか自我を維持することも人を愛することも出来ない少女は、そして静かに抵抗を止めた。愛情と快楽に獰猛さを削がれ、肉人形に堕していく。
　――ギンガゴンッ!!　ゴガッ！　ガチリ――ゴギッッン!!　ガゴンギンガゴンギンガゴンギンガゴンギンガゴンギンガゴンギンガゴンギンガゴンギンッッッ!!!
　今や装置は猛威を振るっている。僅かでも腰の上下を怠ればスピードに負けて、たちどころに羽を折られる。これは既に拷問道具などではなかった。シェリスエルネスによって些細に手を加えられた瞬間から、女の理性を轢き殺す処刑具へと変貌を遂げていたのだ。
　――グヂュッッズュルヂュリリ゛リ゛ッッッ!!
「イ゛――――ィィイ゛ッッ!!　あ、ハ……ッ！　ァァァアアア゛ぁぁぁぁっっっ!!」
　膣部で荒々しい抽送擦過を繰り返す濡れそぼった淫音が響き、突き込まれる回転棒であたかも子宮口に火を起こされるが如き少女は、唇を閉じることも忘れて囀りを甲走らせる。
　十二分に潤んだヴァギナの粘膜カバーに覆われた歯車ディルドゥの不規則な回転が、設計を間違えたような狭隘さに抗議を示して襲いかかるのは、官能の漁り火に蕩けて赤らんだネールピンクの肉襞だ。櫛目が付きそうな程、熱心に強く偏執的に性の地雷原が梳かれていく。快楽の連続発破が濡れて蠢く女洞を広げるどころか益々締め付けさせ、摩擦係数の上昇と共に更に威力を増した限りない爆発に脳髄が徹底的に打ち砕かれた。
　拘束ベルトを利用して全身でシェリスを自分の方に引っ張り、遂に懇願してしまう。
「あ、あそこ、締まるっ、これいじょう締まらないぃぃぃぃっっっ!!　突、く、のっ、無理ぃぃぃぃぃぃっっ!!　ヒァ゛、脚、もう動かないっ、止めてよぉぉぉシェリスッッ!!」
「きゅ――ふゅうぅぅうっあぁぁぁぁ……あっっ、ら、競りが、ォォ、終了するまで駄目ですわ?!　折角ぅわたくしたちのっ、淫らな所を見て貰えていますのにぃぃぃっっっ!!」
　少女が無力化しつつあると見るや、魔姫が止めを刺しに来る。
「にギィィィィィィッッ!!　か、加速ッ?!　おオ……ッ、おヒり……触らないで……!!」
　――グヂュズヂュブヂュル゛ヂュッッッ!!!　魔属の身体能力を生かして秒間十インパクト。それは既に魔少女が受け止められる容量を遙かに超えていた。膣が勝手に締まって硬直する。迷子になって泣き喚いていた子供が、ふと繋がれた手を固く握るかのように。
　二人三脚で悶絶する虜囚たち。シェリスは揺さぶられる大振りなヒップをベシンッベシンッとスパンキングをされて被虐に戦き、ランセリィは交代でアナルを指と羽根ペンでねぶられて、その悍ましい感触から逃れようと、さらに淫靡に傾倒していく。
「アッハ、燃えカスになるのよ、ランセリィ！　砕かれゆく幼な児の全能感!!　美獣の欲望に塗れ堕ちていく闇の聖少女!!　それが私に力を与えてくれる!!!」
「ヒィッ、ヒィィィッッ!!」
　頭の中で快楽の雷鳴が轟き響く。未熟な膣と幼肌を衝く二種類の陵辱が渾然一体となり、少女を最後のステージへと押し上げていく。
　永遠に魅惑の牢獄で腰を振り続けるかに思えたランセリィの後頭部をシェリスが両掌で掴み、歯のぶつかるほど情熱的な接吻を繰り返しながら顎を上げさせたのはその時だ。
「認めさせてあげなさいよ、シェリスエルネス。その娘に自分の弱さをねーぇ?!」
「シェ……リス……ッ、な……に…………っっ?!　も、何も……しない、でッッ!!」
「ふふ……愛していてよ!!」燃える桃色の吐息を肺腑に流し込まれて意識が空転した。
　調教された犬が笛に呼ばれるが如く、魔少女の四肢がその言葉にビクンと反応する。
「ふぇぇぇぇぇっっ?!」
　目の前で昏く熱く圧倒的な魔性の威圧感を以て微笑む夜珂の娼衣の女帝に自分は肯定されたのだ。そう思うと心に昂揚が湧き上がり、肉が歓喜に沸騰した。
「ヒあ……ア゛ァ、ァ……ッ！　ずるい……っ、今更ずるいぃぃぃっっ!!」
　淫靡に傾倒し魔の衝動を解放した常夜の姫君に睥睨され、腰も魂も砕けていく。
「意地っ張りな所も、無鉄砲な所も、考え無しな所も、性格の捻れている所も!!　貴方と一緒がいいの、一緒に堕ちたいのっ！　だから――おイきなさい!!!」
「アヒィィィィィィィィィッッッ!!!」
　言霊の一つ一つが傷ついた敏感な心を鞭打ち、裂傷を曝いて甘い膏薬を塗り込んだ。　頭皮に食い込む指の深みが少女の牝芯に隷属の楔を打ち込んでくる。
（シェリスシェリスシェリスシェリスシェリスシェリスシェリスエルネスッッッ!!!）
　全身の細胞が喜びの悲鳴を上げシェリスエルネスに平伏した。爪先、髪の毛先の一片に至るまで。絶望とも歓喜ともつかぬ時ならぬ嬌声を迸らせて、少女は解禁された絶頂に食らいつく。あどけない牝の芯に亀裂を入れて、重々しい恍惚のマグマを地響きを立てて噴出させた。
「う、あ……っっ、イく、イくイ゛くイ゛ぐぅぅぅぅっっっ!!　オ、ア、お母、さん……ママッ……ママァァァァァァァァッッッ!!!」
　呆気なくランセリィは達した。二人同時に互いの秘部に潮を噴きかけながら、膀胱を空にする。孔という孔を埋め尽くされ、しっかりと腰を密着させながら、ズリュズリュと膣前庭を回して糸で繋がれたクリトリスを刺激すると、幾らでも愛液がしぶくのだった。
　比翼の鳥。漸く姦淫の中で結ばれた二人は、蝙蝠羽を萎れさせる間もなく。更にアームの反転を加速させる褥で、乳房を寄り添わせてまぐわい続ける。
「ふぁぁぁ、シェリスゥゥゥ!!」
「ふふふ、ランセッ、ランセリィ!!」
「ところで、お前たち、早く入札を始めて貰えないかしら。開始金額を設定し忘れてて、実はドキドキしてるのよねーぇ？」計算尽くのヴュゾフィアンカが薄く笑う。

　繋がれたシェリスとランセ。最初、磁石のＳとＳのように羞恥で反発していた物が、次第にＳとＭのようにぴたりと肢体の凹凸を吻合させていた。最早二人とも性奴隷なのだ。支配者の望むままに絡み合わされ、気紛れに引き離される。
　――で、嬢ちゃん、話を戻すぜ。泣くほど好きなシェリスエルネスと、ばらばらに競り落とされて一生離ればなれになりたいかい？
「いやぁぁぁぁっっ！　そん、っ、ずっと、このままぁぁぁぁぁっっ!!　来ないでっ、邪魔しないでっ、離すなんて許さなイッッ、あっち行けぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
　シェリスと二度と会えなくなる。考えただけで心が苦しい。
　滝のように愛液を垂らして足元に白いタールの海を作りながら、追い詰められた獰猛さで少女は喚き叫ぶ。シェリスには屈したが、こいつらにはまだ屈して――、
「言葉遣いがなっていなくてよっ？　コレの餌食になるのが嫌なら、鍵穴を回すのですわ。烏賊臭い奴らの腕に、抱き上げて下さいと媚びを売って懇願せねばならない時の、身の裂ける屈辱と尊厳を穢される味、忘れられなくして差し上げる!!」
　しかし一緒に荒馬に乗るシェリスに正されると、途端に破裂しそうな胸の動悸が更に激しく乱れ、脳がトロトロに溶けていく。心の堤防が蟻の空けた針の如き穴から崩れるが如く身包みを剥がされ、威勢が萎まされていく。
「ぅぅ、ぅぅぅ……!!　ひ、くっ、言うから、腰ぃ回さないでっ！　……お、お願いしますぅ、わたしとシェリスを一緒に落札してくださいぃぃ……っ」
　跳ねっ毛をアルコールの重みでおとなしくさせ、鴉の濡れ羽色の短髪をペタリと貼り付けた少女は、醜悪な怪物たちに屈服の言葉を吐き出しながら、臍の奥を快楽の鍬で丹念に耕されるような不安定な昂揚を覚えて足の小指をきゅっと折り曲げさせた。
（ああ……マゾの快感を教えられちゃう……）
　細められた蒼い吊り眼が、奈落の淵に立たされて熱く潤む。しかし、誰も金額を示さない。値が付かないのだ。
（なん、でっ、わたしには価値が無いって言うの……?!）
　黒と緑のラッピングリボンで華美に飾られた白い蔦が、狂おしく上下し歓喜で汗の蒸気を立ち昇らせながら、屈辱に戦慄く。
　――踊り子さんよ、馬鹿の一つ覚えみてぇに腰を振る以外に、どんな芸が出来るんだ？　今時、器量だけじゃ値もつかないぜ！
　――この程度の輩、貴品扱いがまず、笑わせる！　奴隷だ。買って手足をいで、バラックの娼館に売り飛ばして……も、利益が出んかなぁぁぁ?!
　耳元に顔を近づけてきた黒鬼に恐怖を煽られる。そう言われても、身体を固定されて微塵も動かせない状態なのだ。一見自由な両腕さえも、リボンで前膊を戒められているのと首や腿の拘束帯に可動範囲を塞がれている所為で、魔姫の胸の谷間が定位置と化している。
「そん、なっ、あんまりぃぃっ！　色々出来るのっ、信じてぇぇぇっっ！」
　誘導されていると分かっていても、口が止まらなかった。クスクスと舌なめずりをする魔姫の笑顔と体温に従順な牝奴隷に仕立てられてしまう。
　――君は実のない空証文が一杯のジン以上に価値を持つと思うのかね。これは驚きだ。
　侮蔑しきった嘲笑が返ってきて、涙が出そうになった。
「困ったわぁ、ランセリィ。だぁれもお前に魅力を感じないみたい。そうよね、実力で釣り合わないのだもの、その上、お手も出来ないようじゃ、添え物としてすら不足よねぇ？　私のお手製羽根ペンにすら劣る。あんまりお母さんに恥をかかせちゃぁ、駄目よー？」
「ひく、しょ……っ、何か、ひゃにかするぅぅぅっっ、ふぁってまってぇぇっっ!!」
　苦労して膝から下の足首をバッテン印に交差させて、踝に悪魔尻尾を巻き付ける。神の前で祈るが如く、両拳を握り合わせた。
　ナーサリー・スクール並の自縄自縛を示すお遊戯にからかいが飛ぶ。
　――哺乳瓶が欲しいのかい、little bitch!!　何の真似だ!?
「逆らいません、絶対に逆らいませんから、わたしを一緒に買って下さいぃぃぃっっ!!」
『精一杯頑張ってもそんなポーズしか取れないだなんて』「駄目な娘ですわ？」「駄目な子ねーぇ！」シェリスとゾフィアの囁きが輪唱になって耳朶を打つ。犬ころが腹を見せて寝そべるに等しいポーズを取り、シェリスへの贈り物と化した彼女を更なる痛撃が襲った。
「くあ……！　ああああっっっ!!」
「アッハ、今度はなぁに、リトル・プリンセス！」
「こ、こうすると、もっとクリトリスが擦れるっ、もっともっと深く刺さる――ッッ!!　ふぁぁぁっっ、だめっっえ！　死んじゃう、もう死んじゃう……!!」
　――今度は俺らを放って勝手によがり始めやがった。つくづく使えねぇ！
　コインを指で弄ぶ雄たちが口々に囃し立てる。ラッパ飲みで酒を口に含んだ連中が、まるで消毒するかのように、その液体を霧状に噴き出し少女にぶつけてきた。霧の粒が露出の多い肌に当たると、抽送の快楽と貶められる被虐感とが混在し、肉に刷り込まれていく。パブロフの犬のように、下卑た野次が官能へと直結するように造り替えられていくのだ。
「こんなのだめぇえええええっっっ!!!　興奮する興奮する興奮するの゛ぉぉぉぉっっ!!　出てくる……出てくるぅぅぅぅっっ！　あいつらの言った通りにぃぃぃぃぃっっっ!?」
　薄まりかけていた縄痕が色づきを取り戻し、楓に紅葉が訪れたが如く鮮やかな朱に染まっていく。悍ましい証の顕現にランセリィは恐怖に打ち震えた。腐泥の王ギルバの手で眷属として覚醒された彼女は、真に身を昂ぶらせると縄痕が肌に浮き出るようされている。
　乳房を挟んで連なった痣、クリトリスに付いた結び目の痕、全てが疼き出し、不可視の力で圧迫してくる。これはミーティにつけられたのではない。シェリスが自分が縛った証なのだ。そんな倒錯した感情すら湧き上がり、快感を受け入れてしまいそうになる。
「ごめ゛んなざい！　止めて下さいっ、早く競り落としてくらはいぃぃぃっっ!!　狂ひゃぁう!!　躾けられちゃう、マゾはいやああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「あは、なんて可愛い泣き顔!!　私、娘を陵辱して興奮してますわっ、止まりませんの……っっ!!　せっ、責任を取りますわ、二人で一緒に――ランセッッ!!!」
　落下のタイミングに合わせてパンッパシンッとお尻を張られ、快感の警笛に交感神経が膨れ上がる。視界が白く染まる。
「アッハハハハハハッッッ!!　甘えん坊のＳにしっかり者のＭ。とんだ仲良しさんねぇ、お前たちは！　堕ちて行きなさい、二人で縺れ合い我が呪獄の底へと!!」
　――ヴァギナにぶち込まれてりゃぁ、どっちも同じ雌豚だなっ！　この尻見ろよ、プリプリなのもデケェのも、餌のバケツに鼻突っ込んでがっつくみてぇに腰振って、自分から俺たちの手にぶつかってきやがる！
　――ヒーヒヒヒッッ、肉屋で目方で売った方が相応しいですなぁ！　折角の花嫁衣装も芳しい愛液の香水で、すっかり奴隷の衣装だ。娼婦でもここまで卑臭を振りまいているのはいないぞぉ?!　うん？　その様で男に貢がせるつもりかぁぁっっ!!
　周りからグラスの酒をかけられる。弧を描く琥珀色、真紅のイルミネーション。ドラッグ混じりの安酒の臭いがムッと充満する中、二人の婚姻式は粛々と執り行われる。
「シェリスと一緒に堕ちます！　わたしたちは奴隷です!!」
「前は皆で競り合われましたのにぃぃぃっっ!!　ここまで堕ちましたの……、これが私ですわっ、あははははははぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「ゲヒャハハハッッ!!　ったリめぇダ！　てめぇらミてぇな何人咥え込んダかもシれねぇ淫乱に出す金がアるかヨォッ?!　オラ、よがれよガれっ、無料で奪イ尽くしてやラァ!!」
　互いの顔しか見えなくなる。互いの傷を舐め合うかのように、肌を重ねる。
　それから先はよく覚えていない。ただシェリスが肢体を悶えさせると、呑み込まれるようにランセも動き始め、お互い腰を止めることが出来なくなっていったのを覚えている。
「シェ……シェリ……わらっ、わらひ……！」
「あ……あぁ……ラン――！　一緒に同じ所まで堕ちましょう、私の愛しい娘。愛していますわ、だからだから、――とっても壊したいんですの!!!」
　シェリスがランセリィの握られた両拳を掌で押し包んだ。二人は婚姻を誓うように互いの腕を押しつけ合い、互いの匂いを染み込ませようと激しく腰を擦り付け合う。
　牝犬たちの運命に絡みついたリードを、満を持してヴュゾフィアンカが引き締めた。
「行くわよ、グリーディ・タロット。Envenomed fatal circuit, 享楽と猛毒は汝らを掌握せり!!SET UP!!　暗黒の深淵を堕ちし恒星の爛れた赫光で照らせ……呪いの星辰は媚悦にて形彩られんっ!!　母娘の対話に無粋な真似はしないわ。狂わせてあげるから、存分に楽しみなさいねーぇ？」
　未だ出来事を象徴せず出番を待っている輪姦される恋人の札が宙を舞い、くるくると回転を始める。無慈悲な白手袋が両の指先を合わせて押し包むと、二人の子宮が燃え上がる。
「ひみゅぁぁぁあああ゛っっっ、熱いィ熱いっ、ヒィィィィィィィィィッッッ!!!」
「あああぁぁぁぁっ、ランセリィ、貴方と溶け合って一つになりますわ!!」
　忘我の淵に立たされた虜囚の機械仕掛けの剛直を咥え込む股間から大量の愛液がしぶく。河となって内腿を伝う白濁は、淫らに至るセフィロトの樹の如し。一段と高くなる嬌声の後を高らかに呪文の旋律が追う。
「誓いなさい、親子星！　汝ら愛欲に自制を失う時も、互いの憎悪が身を焦がす時も、いつ如何なる時も我が掌中で寄り添い合い、悶えよがり苦しむことを!!」
「イギィィィィィィッッッ！　誓ひぃますぅぅぅ!!　お願いっ、シェリスと離さないで！　ここでいい……わたし、ここでいいからぁぁぁぁぁ……っっっ!!!」
「ア゛オ゛オオオォォォォォォッッッ!!　誓い――ますわっっ!!　この娘と一緒に、私……!!　果ての果てまで堕ちて行きますわぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
　濡れ垂れたランセの黒い短髪が色合いを沈ませ屈服の帳を落とし、頭頂に跳ねた活発な髪束を伏せさせる。シェリスの棚引く紫髪が篝火の如く舞い上がる。
「ならば世界はここに閉じる！　これより先、淫靡な粘り音の響く無窮の刻が汝らの棲み家なり!!　アッハ、最初に貰った言の葉を返すわぁ、ランセリィ。私に見初められた時点で、お前の……お前たちの命運は尽きていたのよっっ!!!」
　魔物喰らいの忌まわしい祝福と共に、札が、きゅっ、と握り込まれる。
「わたしたちぃっ、ここでぇぇぇっっ！」「永遠に――ッ!!」
『嬲られ続けますぅぅぅぅぅっっっ!!!』
　魂に深々と敗北の烙印を刻み込まれ、淫呪に焼き尽くされて二人は果てた。

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