一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十一二三四五六七八九十

　第四章　始動、十子

　城という存在には元来隠し通路が付き物であるが、その中には、時として意図せず生じてしまう物もあることをご存知だろうか。
　機動力を何よりも尊ぶ魔王ザーバッハの本城は、不沈の飛行要塞である。幾多の戦場を絶望で塗り潰してきたその威容が巨体であればあるほど相応に受ける軋みが、尋常ではない長大な歳月をかけて細く深い罅を作るのだ。外壁より張り巡らされた亀裂の迷路は、象を蝕む病魔となって侵蝕し、数多の袋小路を作りながら次第に深奥へと続いていく。
　それを知るのは魔城に巣食う鼠達だけだ。
　数限りなく繰り重ねられた増築補強も、基盤の損壊を修復不可能なまでに固定してしまう行為でしかなかった。その隙間を縦横無尽に駆け回り、思うがままに食料を略奪する獣。
　だが、そんな彼らでも決して近づかない区画があった。
　――侵入者への最後の祝福の間アビス・オブ・ゲートハウス。
　報讐城の最深奥、“真の本城”へと続く門である。
　これより先に進めるのは、百の将軍と十子のみ。
　外部より一歩足を踏み入れたが最後、待つのは果ての見えない異空間、傲然と聳える一基のアーチ。資格無き者を拒むが如く狂った次元が渦を成して歪み、まるでこの城の主に謀殺された者の怨嗟を凝縮したかのような害意に満ちた邪気が暴風となって吹き荒れている。
　今その空間に座標を取るように、ぽつんと巨大な机が浮かんでいた。縁の板金にⅠからⅩまでの刻印が打たれていて、奇数と偶数が小さな数字から順番に左右に列を作っている。
　短い一辺ですら山にも勝るドラゴン数匹を飼えそうな、使用者の体格を考慮していないサイズもさることながら、そもそも椅子が用意されていないため、緊急に召喚された出席者達は思い思いの方法でローマ数字の打たれたプレートの傍を漂っていた。
　ここでそれぞれの刻印の主達を見てみよう。

　　　Ⅰ　アングラ・サーカス　　ヤキナ・オブゼ
　　　Ⅱ　甲殻覇王ハイドロ・ジェネラル　　　　　　ノァヨァヅィクタ
　　　Ⅲ　禍つ夜の吸精鬼　　　　ヴェルディベルディ
　　　Ⅳ　邪瞼楼主　　　　　　　ビュージー＝ズーモ
　　　Ⅴ　鋼の園の悪魔　　　　　ネイフェレム
　　　Ⅵ　ルビー・イーター　　　Ｗ・Ｔ・カーリンカーラ
　　　Ⅶ　（空席）
　　　Ⅷ　雷粧姫　　　　　　　　パルセイズ
　　　Ⅸ　天蓋の塞皇　　　　　　ユペットケット
　　　Ⅹ　昏暝公　　　　　　　　ロード＝アザルハ

　皮肉を込めて「ダモクレス・ブレーズ」と呼ばれる事もある、ザーバッハ十子。表の意は人界の故事に倣って「王位を虎視眈々と狙う者達」であるが、裏の意は「魔王の戒めと克己に利用される駒達」であった。それを承知で仕官し王位簒奪を目論む者、嫌気が差して距離を置く者、思惑は様々であるが――。
　見込みの無い者は母の胎から出ることさえ許されない、その点だけは一致している。
（ヒィィィイィィィィィィッッッ!!　なんで十子ガ勢ぞろいシてるデスノッッ!!）
　シェリスエルネス一の家臣を自称する――そして他称されたことは一度もない――黒蝶の翅はねを持つ妖精は、この場に強引に連れて来られて精神的な瀕死に陥っていた。
（お嬢様っ、お嬢様ぁぁっっ!!　貴女ノ与り知ラない所デこいつら何処カに戦争を吹ッ掛けようとシテおりますのヨオオオオッッッ!?）
　机の隅でただならぬ気配を察して脅えまくる小さな客を、上からひょいと摘む者がいる。
　Ⅰの刻印の主だった。
「ケッケッケ！　姉妹兄弟の団欒でここまでビビられるたぁ、悪名も轟き轟けり！　雁首並べて何してっかさねぃ？　行き後れ共が妹に先ぃ越されて焦ってやがんのさァ!!」

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